時代の流れに合わせて登場した彼らを、人々はずっと待ち望んでいた。
生まれながらに光を纏った、どんな暗闇の中でも輝ける人。
その存在はまさに奇跡。
GIFT
とにかく、変な奴らだとは思ったね。
一人はやけにテンション高いし、もう一人は逆に落ち着いてる感じがしたし、正反対なはずなのに一緒に居て全然違和感が無かった。
本当に変な奴らだよ。
でも・・・出会えて、よかったと思う。
(東京選抜DF、T. S君のコメントより抜粋)
三月の上旬、俺たち東京選抜はトレセンのため福島県にあるJヴィレッジに来ていた。
「九州選抜のやつに会った?」
何百人も入りそうな大きさの食堂で夕食をとりながら俺がそう聞くと、目の前に座っている将はコクンと頷いた。
「どんなヤツだった?」
「うーん・・・面白いヤツだった」
「それじゃ参考にならない」
グサッと将の皿にのっている空揚げにフォークを突き立てる。
むしゃむしゃとそれを食べていると、将は少し文句を言いながらも一生懸命思い出して口を開く。
「そういえば・・・『俺は将来バティかラウールを倒すディフェンダーぞ!』って言ってた。あとロナウドも」
へぇ・・・。
「大口もそこまで叩くといっそ気持ちがいいね。どんな大物か早く会ってみたいよ」
今現在世界のトップで活躍してる選手を倒すだなんてね。
ずいぶん簡単に言ってくれるじゃないか。
将が面白いヤツって言うくらいだからそれなりに楽しめるヤツなんだろうし、同じディフェンダーとしては一応チェックしとくか。
俺がそんなことを考えていると、後ろからガッシャーンと机がぶつかる様な派手な音がした。
ったく・・・うるさいな。
眉をひそめながら振り返れば、そこには周囲の視線を集めながら噛み付くように言い合いをしている奴ら。
ジャージから見ると関東選抜と東海選抜か。
いるんだよね、ちょっと肩が触れたくらいの事でぎゃあぎゃあ騒ぎ出すヤツって。
「ふざけんなよ! そっちからぶつかってきたんだからテメェが謝れよ!!」
「はぁ!? テメェちょっとサッカーうまいからってなめてんじゃねぇよ! 東海なんて田舎から来てるくせによ!!」
・・・・・・バッカじゃないの?
「つ、翼さん、止めた方がいいんじゃないですか?」
将がオロオロしながら聞いてくる。
その隣の不破は目線だけ向こうにやりながら黙々と食事を続けてる。
「やだね、バカバカしい。勝手にやらしときなよ。」
「で、でも・・・・・・」
「いいんだよ。別にアイツらが注意されても俺達には全く関係ないんだからさ」
「そんな・・・」
将は困った顔をしてるけど、俺は後ろの喧騒を無視して食事を続ける。
別にアイツらがどうなろうと知ったことじゃない。
名前も知らない低レベルな言い合いする奴らに余計な労力を使う気は全くないしね。
ぎゃあぎゃあとバックで続く言い合いにいい加減うんざりしかけていた頃。
一瞬言葉が途切れた合間を縫って、少し低めの、けれどどこか甘い声が食堂に響いた。
「おやおやそこの少年たちよ、一体何を言い合いしているのかね? もし良ければこの不肖・西城敦にも教えてもらえるかい?」
・・・・・・・・・・・・。
食堂が一気に静まり返った。
振り向けばさっきの奴らのそばに一人の男が目に入った。
背の高い、少し長めの襟足を小さく結わいた整った顔の男。
その男はこの食堂中の視線を集めながらも、芝居がかった口調で話を続ける。
「どうした少年よ。さぁどうぞ話を続けてくれまえ」
そうは言われても言い合いを続けることなど出来ず、さっきまで騒いでいた奴らは胡散臭げに突然沸いて出た男をじろじろと見る。
その視線を受けて、男・・・西城って言ったっけ?
西城はあぁ、と納得してポンと手のひらを打ちつけた。
「ひょっとして、もしかするともしかしなくても、諸君は言い合い、詰まる所はケンカというものをしていたのかね?」
とことん芝居がかった西城の指摘にさっきの二人はびくっと肩を揺らした。
それを肯定として受け取ったのか、西城は大袈裟に首を振る。
・・・本当に随分とオーバーリアクションな奴だね。
「いかん、いかんよ少年。我々は自分自身の努力と能力、そして神様のお導きによってここまで来ることが出来たのだ。それを些細なことで無下にしては、今まで自分を支えてきてくれた多くの人々に対して失礼だろう?」
・・・言ってる内容は割といいことなんだろうけど、口調のせいで半分は損してるね。
言われた二人も訳の分からない顔をしてる。
けれど西城はそれに気づいてるのかいないのか、苦痛に満ちた表情を浮かべて話を続ける。
「あぁしかし、この西城は知ってしまった。何故君たちはこんな所で言い合いをしてしまったのか! 場所、そして時さえ違えば西城がこの場面に立ち会うことはなかっただろうに!」
悲しそうに、劇中であれば親友に罪を宣告するかの時のように、西城は言う。
「知ってしまった今、この世の慣わしに乗っ取って西城は君たちを裁かなくてはならない・・・・・・!」
裁くって・・・・・・一体何をだよ?
言われた二人も、おそらく西城の話を聞いていた食堂中の奴らも俺と同じことを思ったはず。
けれどそんな心の声は自分の世界に入ってるだろう西城には(たぶん)届かない。
関わり合いになる気はさらさらない。
けれど気になって俺は口を開こうとした、その時。
「別にいいんじゃないかな? 西城が無理に裁こうとなんてしなくても」
涼やかな、声。
シンとした食堂に溶けるように響いた綺麗な声。
その場の空気さえも変えてしまう様なその声に、西城はバッと身を反した。
そうすることによって初めて俺の位置からその声の持ち主が見える。
その人は柔らかな微笑を浮かべて口を開く。
「まだガイダンス前だから彼らもここのルールは知らないだろうし、無理して裁く必要はないと思うよ」
まぁ西城が裁きたいのなら別だけど、それはちょっと理不尽じゃないかな? と言ってその人は笑う。
「何と人聞きの悪いことを言うのだ、クン! この西城、私利私欲・私怨によって人を裁いたりなど決してしないぞ!」
「あぁ、それはもちろん知っているよ。」
西城がどこか楽しげに言い返したのに対して、その人も頷きを返す。
と、西城はくるりと振り返ってさっきの二人に機嫌良さそうに言った。
「良かったではないか少年たちよ! クンの心優しい恩赦によって西城は君たちを裁くことなく、君たちは西城に裁かれることなく今までの生活に戻れるのだよ! あぁこれは全くクンに感謝せずにはいられない!」
なんか・・・? の登場によって西城のテンションがさらに上がってるような気がするんだけど。
けれどそれはいつもの事なのか、と呼ばれたその人は全く気にせずに西城の側まで歩いてきた。
「君たち、夕食はもう食べた?」
穏やかな声で尋ねられ、最初騒いでいた二人は戸惑いながらも首を横に振る。
その反応にその人はそう、と頷いて、
「なら、早く食べたほうがいいよ。ガイダンスまでもう時間がないから」
「おっと少年たちよ、もう決して言い合いなどするではないぞ! でなければ次こそ、西城は君たちを裁かなくてはいけないからな!」
西城が釘を刺すのを背に、二人は慌てて元いた席へと帰っていく。
ぼけっとそれを見ていた他の奴らも我に返って食事を再開して。
そして、その場に残った二人。
西城と、。
こうして並んでるのを見ると、二人の間には多少の身長差があった。
西城の方は六助と同じか少し高いくらい。
逆にの方は柾輝よりも少し低い、170cm弱ってところか。
二人とも顔は整っていたけれど、その種類は全く別だった。
精悍な、いかにも青年らしい容貌の西城に対して、はどこか中性的な穏やかさを感じさせる綺麗な顔立ちだった。
立ったまま二人は小声で会話を交わす。
内容までは聞こえないけど、西城の手振りや表情には静かに微笑みながら。
外見や話し方、テンションや雰囲気まで何もかもが正反対のように見えたけれど、そこにいる二人は何よりも自然だった。
一分の隙も感じさせない完成された空間。
言い方は悪いかもしれないけど、まるでセットのような二人。
他者とは違った空気に、知らず威圧されそうで。
手のひらを握り締めて、きつく睨んだ。
「・・・・・・・っ!」
じっと二人を見ていると、西城に笑みを向けていたが急にこちらを振り返った。
目が合って、逸らせなくて、柄にもなく固まってしまって。
そして次の瞬間、が微笑したことで俺はさらに息を呑んだ。
パン、パン!
の隣にいた西城が大きく手を叩いた音で、食堂中の視線が再び二人に集まった。
西城はそれに満足したようで、笑顔で声を上げる。
「さて、成長期まっさかりであろう少年たちよ。たくさん食べて大きくなるがいい! しかし7時からのガイダンスには絶対に遅れてくれるなよ!」
「場所は2階の大ホール。合宿中のスケジュールも配られるから、筆記用具も持参のこと」
「それでは諸君さらばだ! また会おう!」
の注意と西城の劇的な挨拶を残して二人は食堂から出て行った。
自分たちはどこの誰だとか、そんな説明も全くせずに大変不親切なままで。
この一気に騒がしくなった食堂の責任、取る気は無い訳だ?
「えーっと・・・、あの人たちは結局何だったんでしょうね・・・?」
ざわざわと似たような会話が交わされる中で、将が箸を持ったまま困った顔で首を傾げる。
「さーね。大方トレセンのスタッフなんだろうけど」
「そうなんですか!?」
俺の言葉に将は大げさに反応する。
その隣の不破は無表情な顔で頷きながら、
「確かにその説がもっとも濃厚だろう。奴らはこれから行われるガイダンスの内容を知っていた上、指示まで出してきた。着ていたジャージもこの合宿に来ているどの選抜のものとも一致しない。となると考えられるのは奴らがここに選抜される為に呼ばれた選手ではなく、監督・コーチなどのスタッフだということだ」
「えっ? で、でもあの二人とも僕らとあんまり年が変わらないように見えたんだけど・・・」
「外見的年齢で言えば14〜18歳の間と見た。奴らの会話が敬語ではなく対等、いわゆる『タメ語』というもので交わされていた点から推測すると、奴らの年齢差は0、あっても1〜2歳と思われる。となると、後はどちらの方が年上かという話になってくるがそれは・・・・・・」
不破が得意の考察を披露してあいつらの正体を推察している。
まぁ二人ともまず間違いなくトレセンの関係者だね。
それならこの後に行われるガイダンスで会うことが出来るだろうし、もしそこにいなかったら玲に聞けばいい。
でも、絶対に逢える。
偶然や運命や奇跡なんてこれっぽっちも信じてないけど、自分の抱いた確信には自信があるから。
あの二人には必ず会える。
会う。
会わなくちゃいけない。
妙な使命感が胸の中に広がり始める。
何かドキドキする、ワクワクする。
こんな感じは久し振りだ。
あの二人の存在が、俺の中の何かを駆り立てる。
想像もつかない未来へと向かって。
俺は飛んだ。
あの二人の傍で、一緒にサッカーをやるために。
2002年5月21日