門扉を挟んで、向かい合った。きょとんと目を丸くしたのはお互い様で、仁王がそこにいたのはただ単に柳生の家が引っ越すことなどせずに、五年前と同じ場所にあったからだろう。五年の間、一度も顔を合せなかった。手紙やメールのやり取りはそれこそ何十、何百、もしかしたら千回以上していたかもしれないけれど、自分自身の写った写真を送ったことは不思議なことに一度もなかった。だからふたりの記憶の中にあるお互いは、小学校二年の時で止まったままだった。それでも、一目見あって理解し得たのは、奇跡に近かったのかもしれない。ふたりしてお揃いの制服は、今日が入学式ということもあって新品かつ、少しだけ大きい。ぼとっと、柳生の手から傷ひとつない通学鞄が玄関の石畳へと落下した。電柱にもたれかかっていた仁王が、ぱちぱちと目を見開く。口を開いたのはふたり一緒で。
「仁王君っ! 何ですか、その銀色の頭は!」
「柳生っ! 何じゃ、その眼鏡は! 七三分けは!」
無作法にも互いを指さしあって、思わず叫んだ声は大きくて、家の中で入学式の付添いのために支度をしていた柳生の両親にまで届いたという。鞄を放り出して柳生が門扉に駆け寄る。がちゃんと音を立てて乱暴に錠を外していると、道路にいた仁王も走り寄ってきた。伸ばしあった手がどうしたものか途方に暮れて宙を彷徨い、指先だけが僅かに触れ合う。きつく手を握り締めあい、成長した互いの姿をしばし上から下まで眺めあって、もったいない、と叫んだのは柳生の方が先だった。
「仁王君、何ですかその頭は! あの綺麗だった黒髪はどこに行ったんですか!? というか銀色なんて、染めるのなんて、大々的な校則違反ですよ!? 入学式からその格好なんて、あなた一体どういうつもりですか!」
「柳生こそ何じゃあ、その眼鏡は! おまんの鋭くて色っぽい目はどこ行ったんじゃ! しかも何で七三!? 中一でそれはありえんじゃろ! っちゅーかおまん、何で格好よさを全部殺しとるんじゃ! 勿体なさすぎるぜよ!」
「眼鏡は視力が落ちたからです! ミラーコートなのは目つきが悪いって言われることが多くなったからですよ! 七三なのは色が明るいからせめてもの真面目さを主張してるんです! 馬鹿にしないでください!」
「阿呆かっ! そこは元の明るさを活かして派手に仕上げるところじゃろ! 目つきの悪さなんて大した問題じゃなか! 俺だって銀髪は似合うから染めとるんじゃ! ポリシーにぐだぐだ言うなんて男らしくないぜよ!」
「大体、何で仁王君がここにいるんです!? 福岡じゃなかったんですか! いつ神奈川に戻ってきたんですか! しかもその制服、立海なんて聞いてませんよ! 何で教えてくれなかったんですか!」
「教えたらつまらんじゃろ! おまんの驚く顔が見たかったんじゃ!」
「驚いてますよ十分!」
「だったら素直に喜ばんかい! おまんの親友が帰ってきたんじゃ! これからずっと一緒にテニスができるっちゅーのに、何でおまんは怒るんじゃ! 帰ってこなかった方が良かったんか!?」
「そんなこと言ってないでしょう! 嬉しいに決まってるじゃないですか!」
互いの胸ぐらを掴み合う距離で変化を詰り合っていたが、柳生が強くその腕を引いた。襟を掴まれて引きずられた仁王がバランスを崩す。次の瞬間、目の前に広がったのは亜麻色の襟足と、ぴんとアイロンのかけられたワイシャツ、そして皺ひとつない制服だった。顎の当たる感覚に、あぁやっぱり身長が負けとる、と仁王は柳生に抱きしめられながら、そんなことをぼんやりと考える。
「お帰りなさい、仁王君・・・!」
「・・・最初っから、そう言いんしゃい」
ただいま、柳生。抱きしめ返して、互いに新品の制服に皺を作りながら、少しだけ涙声で、それでも笑った。桜が春を彩っている。





中学一年生、春。
2010年10月23日