橙の図書室





その日は結構暖かくて。
図書室に用があったけどそれを済ました後も少し残って本を読んでいた。
つーかこの席って眠たくなるよな。
窓際で眩しくない程度に陽が当たって。
昨日、あんまり寝れなかったし。ちょっと寝てくか。



人の多いところでは寝ない。眠れないっていうのもあるけれど。
たとえそれが野球部の合宿だったとしても。
他人がたくさんいるところでは決して寝ない。
・・・・・・沢松がいれば、話は別だけど。
沢松が隣にいればどこでだって寝られる。あいつは俺の味方だから。
離れることもない裏切ることもない全て預けられる絶対の半身。
あいつ以上に俺を理解してくれる奴なんて今までもこれからも現れない。
沢松だけだ。



人が少ないっていってもやっぱりいることはいるわけだし。
熟睡モードには入れず意識だけが浮遊する。
誰かが近づいてくる気配。
自己主張の少ない、揺れるような、けれど確かな存在感。
・・・・・・・・・まだ、帰ってなかったのかよ。



ふわりと髪が揺らされる。
触れた瞬間大袈裟なまでに反応して。それほどビビらなくてもいいのにな?
まぁ、動揺する理由は判るけど。
笑ったような空気。



つーっと撫でるように指が動く。
細く頼りなげな感触は少しくすぐったい。
でもま、もうちょい楽しませてやるよ。



軽く指先に触れた。
本人の唇じゃないのは、奥ゆかしいからなんだか消極的なんだからか。
野球部の奴らには出来ない行為だな。
あいつらはガッついていやがるし。
でも、コイツも似たような感情を持っている。



触れた指先がひどく熱い。



・・・・・・そろそろ潮時だな。
握り締めた指はやっぱりとても細くて。力を込めたら折れそうなくらい。
真っ赤な顔をした仔猫が一匹。
それを見て俺の口元が笑みを刻む。



さぁ、どう料理してくれようか?





2002年9月11日