<橙の図書室>





そっと、手を伸ばした。
窓から赤い夕日を浴びて輝く髪。
触れたとたんにビクッと手が動いてしまって。
でも、猿野君は気づかないまま眠りの中。
ふわ、ふわと揺れる髪の毛。
愛しくて愛しくて自然と笑みが零れてしまう。
好きだなぁって・・・・・・強く、思う。



そっと、指を下におろした。
こめかみを伝って、その頬へと。
震えてしまって、熱がだんだんと集まってきて。
顔が真っ赤になってる・・・・・・かも。
ふっくらとして滑らかな頬。
初めて触った彼。
胸がドキドキしてる。
この音で猿野君が起きちゃうんじゃないかなって、心配になるくらい。
全身が、熱い。



その唇に。
その紅い唇に触れたらどんな感じかするんだろう。
艶やかな唇に私の指で。
手で、肌で、・・・・・・・・・・・・・・・私の唇で、触れたら。
唇で触れたら。
触れた、ら。



鼓動がドキドキとうるさい。
熱に浮かされるように、妄想に捕りつかれるように。
それでも、唇を寄せるなんてことは出来なくて。
指先だけでそっと、触れた。
猿野君の唇に、触れた。



ゆっくりと開かれていく瞼。
大きな手の平で掴まれた指。
逃げ場を失くしてしまった私。
まっすぐにその瞳は私を見つめて。



囚われてしまった、彼の瞳に。



彼という存在にずっとずっと前から。



私は囚われていたのだ。





2002年9月10日