<笠井竹巳生誕記念>





「俺、今日が誕生日なんだ」
「・・・・・・マジで?おめでとう。でも悪い。何も用意してないや」
「いいよ、そんなの。真田に『おめでとう』って言ってもらいたかっただけだし」
笠井竹巳が笑うのにつられて、真田一馬も笑った。



今日は11月3日、笠井竹巳の誕生日。



今日はせっかくの休日にも関わらず、天気は雨。
真田のクラブはもとより、いつもは室内練習場で部活のある笠井も、今日は休みが与えられた。
突然の休み。
そう決まってすぐに笠井は真田へと連絡をとった。
実は言う気はなかったのだけど、やっぱり言葉が一つだけ欲しくて。



「何で言わなかったんだよ?前もって教えてくれればケーキでも焼いたのに」
真田が少しだけ困ったように眉を顰めて見てくるのに、笠井は笑って理由を告げる。
「だって八月にあった真田の誕生日に、俺は何も出来なかったし。俺だけ祝ってもらうのも悪い気がして」
「悪くなんて全然ない。っていうか当日言われた方が悪い」
「うん、ごめん」
言葉だけで謝る笠井に、真田は仕方がないといった感じで溜息をついて。
そして立ち上がるとリビングを抜けてキッチンへと入っていった。
母親との二人暮らしにしては大きな冷蔵庫を開けて中を覗き込む。
「・・・夕飯、寮で食べるんだろ?」
「真田が作ってくれるなら食べないよ」
「・・・・・・泊まってくのは、やっぱ無理か」
「真田が泊まっていいって言ってくれるなら、泊まるよ」
笠井は何でもないことのように言って、そして嬉しそうに笑った。
本当は今日は寮で藤代や渋沢が祝ってくれると言っていたのだけれど、恋人と過ごす時間には代えられない。
しかし一馬はそんな笠井の思考を見抜いたかのようにサラッと言った。
「じゃあちゃんと夕飯前には帰れ。でもって今週末はちゃんと外泊許可をとってから泊まりに来い」
「・・・・・・・・・なんだ、残念」
「渋沢達が祝ってくれるんだろ?チームメイトは大事にしとけよ」
「うん、判ってる」
でもやっぱり真田と一緒にいたいな、と続けた笠井に真田は思わず言葉を詰まらせて。
そして困ったように小さく、でも嬉しそうに笑った。
「週末は、ちゃんとケーキも焼いて、夕飯も豪華なの作っておくから」



だからちょっと遅れるけど誕生日パーティーをしよう、と言った真田に笠井は目を細めて微笑して。
立ち上がって自分もキッチンへと入ると、同じくらいの身長である真田にそっとキスをした。
とりあえず今日はここまでで、週末は際限なく貰うから、と耳元で囁くのも忘れずに。
うっすらと顔を赤くする真田に笠井はますます笑みを深くする。



本当は、 君がいれば、他には何にもいらないんだけどね?





2003年11月3日