<真田、飛葉へ行く4>





フィールドを走り回る後ろ姿を見ながら井上直樹は思った。
こないに丁寧なサッカーをする奴が東京都選抜にはおるんか、と。



監督である西園寺の指示により、練習に新しく一人加わった。
我らがキャプテンの知り合いで部活を見学に来ていた他校の生徒。
─────真田一馬。
見たことのないデザインのジャージはきっと個人で使っているものなのだろう。チームのロゴではなくメーカーの小さなマークが入っていて。
都選抜で、なおかつUー14でもある真田の参加に部員たちはにわかに騒ぎ立った。
椎名が西園寺の元へと駆け寄り、少しの説明を受けて戻ってくる。
真田一馬と、一緒に。
フィールドへと足を踏み入れた真田に、一瞬前までの穏やかな表情はなかった。



人数が足りない所為もあって、紅白戦ではなくオフェンスVSディフェンスのフォーメーション練習をすることになって。
真田は当然のようにオフェンスへと組み込まれた。
井上はそれを見ながら椎名へと話しかける。
「なぁ翼、これはちょお偏りすぎてるんとちゃうか?」
飛葉の要とも言えるディフェンス陣と、あまり強いとは言えないオフェンス陣。
いくらUー14の真田が加わったとて、一人では出来ることにも限りがある。
そう思って聞けば、椎名はニヤリと可愛い顔(本人には口が裂けても言えないが)にはそぐわない笑みを浮かべて。
「いいから大人しくしてろ。気を抜くなよ」
「そりゃ判うとるけど」
「ホラ、さっさと位置につきな」
シッシと追い遣られながら井上も自分のポジションにつく。
オフェンス陣の中で何事かを話している真田へと視線をやりながら。
ピーッと始まりのホイッスルが鳴った。



サッカーコートを半分だけ使った練習。
その中で真田は中央に立った。──────────そう、中央に。
蹴り出されたボールを受けて、味方選手が前へと走っていくのを見て。
そしてドリブルを開始した。
視線を左右へと走らせて、スライディングを交して、前にパスを。
パスを。
「・・・・・・・・・なっ!?」
「─────やってくれるね、真田」
シュートへと持ち込まれる前にカットして椎名が不敵に笑った。
MFの、真田へと。



「今の、椎名が前に詰めてきただろ?なら、そこの空いたスペースにボールを入れればいい。もう一人のFWが取りに行くか、ウィングが中に切り込んで行ってフォローに入るか」
今のプレーの改善点を指示しながら真田は巧みにボールを操る。
足元から少しも離れないそれに、井上は思わず舌を巻いた。
翼もそうだが、真田も彼に負けず劣らずボールの扱いが上手い。
いや、むしろキープ力やタッチの正確さだけを取れば椎名以上かもしれない。
高度な指導を受けてきただろうことは明らかで、井上はつい感嘆のため息をつく。
何て綺麗なサッカーをするんや、と。



正確で、丁寧で、綺麗なサッカー。
真田一馬のプレーとは見ている者に緩やかな余裕を感じさせるものだった。
静かで確実なプレー。



FWとしての真田一馬も見てみたい。
井上はそう思ってスライディングを仕掛ける足に力を込めた。





2003年5月30日