<真田、飛葉へ行く3>





隣のパイプ椅子に座っている少年を見下ろしながら西園寺玲は思った。
この子が飛葉にいたら、きっとオフェンス力も十分な強豪チームになれるのに、と。



真剣な顔でフィールドを見つめている真田に西園寺は尋ねた。
「どうかしら? うちのチームは」
笑みを漏らしながらの言葉に真田は一つ小さく頷いて、視線を動かさないまま口を開く。
「・・・・・・結構、強いと思います。特にディフェンス。椎名を中心に良くまとまってる」
「ラインディフェンスはこの年代では珍しいものね」
「椎名の統率力はスゴイけど、畑とか他のヤツも上手いし。俺たちでもそう簡単には突破出来ないかもしれない」
ロッサのメンバーを思い返してか、真田が目を細めてフィールドを走り回る部員たちを見つめる。
英士のパスならギリギリに出せるから、あとはタイミングと振り切りで。
それか結人のミドルシュートでラインを少しずつ前に引き寄せて。
あぁでも、1対1にも強そうだからボールは浮かせずに処理した方がいい。ヘッドじゃ勝てない。
ブツブツと一人で呟く真田に西園寺は苦笑した。
Uー14のエリートとはいえ、サッカー好きの一人には変わらないのだと思って。



西園寺は真田一馬という少年の内面に興味を持っていた。
それは再従兄弟である椎名翼がいやに彼のことを気にしているという理由からで。
選り好みの激しい椎名が気に入ったということは、真田には表面に現れていない何かがあるのだろう。
椎名を魅了した、何かが。
最初は嫌いまではいかなくとも、どうでもいいと思っていたはずだ。椎名は、真田に対して。
けれどそれはいつのまにやら『興味』というものに形を変えていて。
二人の間に何があったか、西園寺は知らない。
ただ珍しいな、と思うのだ。
あの再従兄弟が一人のことを気にかけて、自分の側に置きたがっているということに。



それにしても真田がよく飛葉まで来たものだと西園寺は考える。
どんな手を使ったが知らないが、椎名はとりあえず真田に電車に乗ってここまで来させることに成功しているわけで。
それはサッカーが好きだからという理由ではいささか説明がしきれない。
果たしてそれだけの理由で来るだろうか?
疲れはてているだろうテストの最終日に、明日にはクラブでも練習があるだろうに。
────────それとも。
それだけ大切なのだろうか。真田一馬にとって、サッカーというものは。



「ねぇ、真田君」
初めてこちらの向いた彼に唇をつり上げて微笑んだ。
「練習に混ざってみない?」
「・・・・・・・・・いいんですか?」
驚いたように目を丸くする様子に楽しそうに笑って。
「ええ、モチロン」
西園寺はご機嫌で許可を出した。



ありがとうございます、と頭を下げた真田に、見習って欲しいものね、なんてナマイキな再従兄弟を思い出しながら微笑んだ。





2003年5月27日