<真田、飛葉へ行く2>





畑六助は黒と白のボールをリフティングしながら思った。
何で我らがキャプテンは校門を見つめたまま少しも動かないのだろうか、と。



今日は中間テストの最終日。
前日まで椎名にスパルタで指導を受けていたおかげで、まぁ平均くらいは取れたと六助は思っている。
サッカー部を作ってから、もとい椎名に出会ってからは部活だけでなく勉強もそれなりに普通の成績を収めているのだ。
それもそのはず、サッカー部を作った初日に「くだらないことで呼び出し食らうなよ?」とキャプテンがニッコリと微笑んだわけで。
つまりそれは「部活に支障来たすようなマネすんじゃねぇぞ!」という命令形に置き換えられる。
勉強が苦手で授業をサボりがちだった六助たちも、椎名の命とサッカー部のために今ではそれなりの成績を取るようにしていた。
そしてそのことによりサッカー部への風当たりが弱まったのも事実なのである。
まったく、椎名の遠望とそれを実現させる力に六助たちは脱帽するしかない。



そんな我らがキャプテンは先程からじーっと校門の方を見つめたまま微動だにしないでいる。ちっとも、動かない。
瞬きさえしていないんじゃないかと思わせるその様子は、椎名の可愛らしい(本人には口が裂けても言えないが)外見と合わさってあたかも人形のように彼を見せている。
そういえば姉貴がバービーとかリカちゃんとか沢山持っていたなぁ、と兄弟の多い六助は思った。
しかし目の前の椎名は人形などでは決してない。
・・・・・・・・・人形は、あんな鬼のような形相などしないはずだ。



「なぁ、柾輝。翼、どうかしたのか?」
とりあえず一番近くにいた彼に尋ねると、黒川は椎名の小さな背中をチラッと見た後で小さく口元を緩める。
「・・・・・・今日は客が来るんだと」
「客?」
「選抜の、真田一馬」
「あぁ、翼のお気に入りの」
理由を聞いて六助は納得した。あぁなるほど、だから。
真田が来るから、椎名はさっきから校門の方を見てばかりいるのだろう。きっと彼が着いたときに一番に気づけるように。
そう判れば後は特に疑問も残らない。
何で真田が飛葉に来るのかなんて、先の『翼のお気に入り』の一言で用足りるのだし。
見れば目の前の黒川もポーカーフェイスにどこか楽しそうな表情を忍ばせていて。
そういえば真田は黒川のお気に入りでもあったな、なんて考える。
もちろん六助とて真田が嫌いではないのだ。むしろどちらかといえば好きな部類に入るかもしれない。
選抜合宿のときはエリートを鼻にかけた嫌な奴だと思ったが、実際に練習などで話してみれば、彼は相手の実力を素直に認めるまっすぐな性格の持ち主だった。
そのくせどこか確固とした透明な雰囲気をまとっていて。
気にならないはずがない。
そんな存在なのだ、真田一馬という人間は。



「あ」
気づいて呟くよりも早く、前にあった小さな背中は駆け出して、さらにみるみると小さくなっていった。
向かっていく先には飛葉のものとは違い、ブレザーの制服を着た男子生徒の姿があって。
「やっと来たか」
隣の黒川が楽しそうに笑うから、六助も同じように笑った。



グラウンドを横切って、椎名と真田が並んで歩いてくる。





2003年5月24日