<真田、飛葉へ行く1>





真田一馬はアスファルトの道を歩きながら思った。
何だか前にも似たようなことがあったなぁ、と。



始まりは昨日の夜にかかってきた電話だった。
待ち受け画面に表示されたのは選抜で一緒の椎名翼という名前で。
知らないわけではないが特別親しいというわけでもない相手の名前に真田は首を傾げた。
けれどとりあえず男性ボーカルの新曲を通話ボタンを押すことで止める。
そういえば結人は女性アイドル歌手の着メロを指定していたっけ、なんて思いながら。
『・・・もしもし真田?』
電話越しに男にしては少し高めの声が聞こえて。
すべてかそこから始まった。



椎名の用件は「明日、飛葉へ遊びに来ないか」というものだった。
『テストも最終日だから終わるのは早いだろうし、クラブはないはずだから、どう?』というどこから調べたのか判らない誘い文句を言われ、真田は当然のごとく戸惑った。
聞けば真田の通う野上ヵ丘と同じく飛葉も明日でテストが終りらしい。
部活をやるから見に来ないかと、椎名は言うのだ。
真田は考える。そういえば明日は英士も結人もまだテスト中だったな、と。
クラブがないのはたしかだし、宿題はテスト直後ということで特にない。
洗濯は一度家に帰って取り込んでから行けばいいし、スーパーでは特売もないはずだ。
飛葉中サッカー部の監督は選抜でも監督を務ている西園寺玲だと聞いているし、だとしたら練習を見るのは参考になるかもしれない。
特に断る理由は見つからない。ただ、椎名が自分を誘う訳が判らないだけで。
けれど真田は頷いた。
すべてにおける真田の優先順位において、不明瞭な点よりもサッカーの方が当然上なのだから。



何か手土産を持っていくべきなのか考え、途中のコンビニでペットボトルのスポーツ飲料を三本購入した。
残暑の日差しで温くなってしまわぬ内にと、真田は少し早足でアスファルトを歩く。
自分とは違う制服の生徒たちがだんだんと多くなってきて、その中を逆らうように歩いている自分はきっと目立つのだろうな、なんて思いながら。
ときおり向けられる好奇の視線を無視して、教えられた通りの道を行けば学校らしき大きな建物が見えてきた。
中学校独特の溢れる活気に、目的地だと確信する。



正門には立派な文字で『区立飛葉中学校』と書いてあった。





2003年5月22日