<欲し、求めるもの>





自分は真田を求めているのだと強烈に実感することが椎名には多々あった。



椎名は真田が好きだった。
いや、好きという単語はこの場合相応しくないかもしれない。
真田一馬という人間のすべてを椎名は愛しいと思っていた。
幼さを残した表面的な部分も、密やかだけれど隠されていない静かな部分も。
そのすべてを思うたびに胸が痛む。
感情に名をつけるのならば、それは恋かもしれない。
愛かもしれなかった。
姿を見る度に心を震わせるような可愛らしいものではなかったが、それは確に存在していた。
椎名の、心の中に。



差別的な発言をするわけではないが、椎名は自分が好きになるのは女だろうと普通に思っていた。
実際に今まで恋心を抱いた相手は全員女だったし、付き合った相手も女だった。
男を好きになる自分など考えたこともなかった。
それなのに。
それなのに今は真田のことを欲しいと思っている。
体ではなく、その心が。
真田の心が欲しいと思っている。
痛いくらいの強さをもって。
泣きたいくらいの苦しさをもって。



この手が触れられたら良いのにと椎名は思う。
この手が真田の心に触れられたら良いのに。
そうしたらもっと優しく出来る。優しくその心を掬い上げることが出来る。
傷なんてつけないように、そっと。
抱きしめて、誰にも触らせないように、悲しんだりしないように。
そうしたいと思っていた。
真田の心はあまりにも綺麗すぎるから。



透明すぎて何も映さない心を見る度、胸が痛む。
その中に意識されている彼らを見て、唇を噛む。
悔しいと思う。どうしても止められない。



特別になりたい。──────────他でもない、真田一馬の。



「・・・・・・真田」
呼び掛けに振り向いた顔は太陽を背にした所為で見えなかった。
そのままでいい。そのままでいいから。
侮蔑に顔を歪めても、突然のことに驚いても、喜の顔でなくていいから。だから。
なかったことにだけは、しないで。



「おまえが、好きだ」



椎名にとって真田は、心に深く残りたいと初めて思った相手だった。





2003年5月16日