<真田、森へ行く5>





三上亮は寮から出てくる人影を視界に収めながら思った。
なぜ武蔵森学園サッカー部松葉寮から真田一馬が出てくるのだろうか、と。



「よぉ」
とりあえず三上は寮の敷地から出てきたばかりの真田に声をかけた。
夕日はとうに沈んで、街灯の下で真田がこちらを向く。フィールドでしか見たことのない顔が今はどこか違って。
夜も意外と似合うんだな、と三上は思った。
「・・・こんばんは、三上さん」
名前を言われて少なからず驚いた。まさか覚えられているとは思っていなかったから。
「うちに何か用だったのか?」
「はい。藤代に」
「・・・・・・ったく、あのバカ」
簡単に予想がついた。むしろ簡単すぎで呆れかえるくらいイージーな予想に肩を落とす。
どうせ藤代が真田に会いたくて駄々でもこねたのだろう。だからきっと常識人な真田は寮まで赴いてきたのだ。
我侭で無意識のうちに計算したかのような行いをする後輩に舌打ちして。そしてほんの少しだけ羨ましいとも思った。
「駅までの道、判んのか?」
「あぁ、たぶん」
「送ってってやるよ」
その言葉に真田は目を丸くしたが、それ以上に三上自身の方が内心で驚いていた。
自分が表立って他人を気遣うことなんて滅多にしないのに、特に親しいわけでもない真田に。
「・・・・・・ありがとう。でも、大丈夫だから」
照れたようにはにかんで笑うから、自分もつい苦笑に近い笑みで浮かべてしまって。
「気をつけて帰れよ」
コクンと頷いてから目礼して去っていく相手を見えなくなるまで見送った。
また来るかな、なんて思いながら。



真田一馬という人間を三上は割合と気に入っていた。正直に言えば後輩である藤代よりも個人的には好きだと思う。
フィールド上ではなく、その他での真田。彼はとても静かで、傍にいて落ち着ける人間だ。
おそらく他者をあまり必要としないタイプなのだろう。大切な者が数名いれば、それで良い。
――――――――――郭と若菜のような大切な者が、数名いるだけで。
持っているものだけで満足し、その中で自分を確するタイプ。藤代とは対極にいると言ってもいい。
悪意にも近い無意識の無邪気を有する藤代に、真田はあまり近づかないだろう。だからこそ、藤代は真田を気にして近づく。
分かり合えないことを知らずに。・・・・・・・・・真田は、知っていても。
知っていてきっと藤代の好きにさせているのだろう。きっとしばらくすれば飽きると思って。
静かすぎる性格だな、と三上は思った。



きっと寮にはご機嫌でニコニコと笑顔を振りまいている藤代がいるのだろう。
渋沢もおそらく笑顔かもしれない。彼も、真田を気に入っているから。
そんな絵を思い描いて三上は笑った。



闇の中、街灯がチカチカと輝いていた。





2003年5月13日