<真田、森へ行く2>





笠井竹巳は駅へと歩きながら思った。
なぜ自分はこれから一度も会ったことのない人物を迎えに行かなくてはならないのだろうか、と。



事の始まりは一人の駄々からだった。
同じサッカー部の、同じ相部屋の、親友とも言える藤代誠二の駄々からすべてが始まったのだ。
今日の朝、藤代はご機嫌でメールを打っていた。ご機嫌すぎて気味が悪く笠井は思わず引いたほどだった。
そしてそんな藤代は数分後に鳴った着メロを聞いて、今までの上機嫌は何だったのか一気に落ち込んでブラックホールを形成した。
あまりに暗すぎて気味が悪く笠井は思わず部屋から逃げたほどだ。
数分後、武蔵森サッカー部松葉寮には藤代の駄々をこねる声が響きまくった。



まとめ役でもあり面倒なことを押し付けられる立場にいる渋沢が駄々をこねて転がる藤代から話を聞いたところによると、選抜で一緒の真田一馬という人物を遊びに誘ったのだが断られたらしい。
じゃあ仕方がない。話はそれで終われ、と笠井は思う。
けれど生まれつき我侭お子様な藤代はわめき散らして床を転がり、手に負えないほどの暴れっぷりを示して見せた。
これが親友でいいのか、と笠井が自問自答したくらいのお子ちゃまぶりだった。
ご近所からうるさいと苦情が来たので、渋沢は胃を抑えながら携帯を取って件の『真田一馬』という人物に連絡を取った。
しばらくのやり取りの後どうにか来てもらう約束をすることが出来たので、笠井は自ら駅まで迎えに行く役を引き受けた。
少しでも騒音を立ててわめき散らす怪獣から離れたかったのである。



黒髪で、目はツリ目気味の、カッコイイ男。
身長は笠井と同じくらいで、一人でいるときは静かな表情で静かに一人立っている。
そんな男を捜せ、と渋沢に言われたのを思い出して笠井は周囲を見渡した。
―――――――――――いた。
本当にいた、となぜか思った。
静かで周りに溶け込むように、けれど周りからは浮き立つように『真田一馬』は立っていた。



「・・・・・・・・・真田?」
上げられた顔を見て、綺麗だと思った。容姿だけではなく、雰囲気が。
これなら藤代が気に入るのも無理はないと思う。・・・まぁきっと真田にとっては災難だろうけれど。
「俺は藤代誠二のルームメイトで笠井竹巳。今日は来てくれてありがとう。助かるよ」
「・・・・・・こっちこそ、迎えに来てくれてありがとう。道判んないから助かった」
微笑む顔を見て思った。



きっと自分は彼を好きになる、と。





2003年5月10日