<真田、森へ行く1>





真田一馬は思った。
なぜ自分はこれから武蔵森へ行かなくてはならないのだろうか、と。



事の始まりは一通のメールだった。
送り主を見れば選抜で一緒の藤代誠二の名前。
この間の練習のときに半ば無理やりに教えられた携帯番号とメールアドレス。
あまり使うことはないだろうと思っていたのに、こんなに早くその機能を果たす日が来ようとは。
そんなことを考えながらメールを開いた。



遊びの誘いだった。



断ろうか、と真田は考えた。
自分と藤代はあまり親しくはない。というか自分的にはライバルと称してもおかしくない関係にあると思っている。
たしかに相手から見れば自分など眼中に入ってはいないのかもしれないが、それは今のうちだけ。
近い将来必ず見返してやる、と真田は思っていた。
それだけの努力をするつもりはあるし、自分の可能性を否定するほどネガティブではないからだ。
そんなことを考えながら返信ボタンを押して返事を考える。
その際に題名の欄もちゃんと「Re:」から「藤代へ」と変えるところが真田の几帳面さを表していた。
そんなところが親友二人に好まれているのを真田は知らない。



とりあえず、断りのメールを送った。



そうしたら返事が来た。
何故か送った相手であるはずの藤代からではなく、彼と同じ学校にいる渋沢克朗から。



メールを開けば「藤代が拗ねていて大変だからどうにかしてもらえないか」というものだった。
どうしろというのだ。真田はふとそう考える。
しかしそうなった原因の一端を自分が担っているかと思うと、放っておくのも気が引ける。
渋沢に恩はないが、義理はあるのだ。



以上のことから真田一馬は武蔵森を目指して出発しなくてはならないことになった理由をきちんと理解した。
「そろそろ、いい?」
隣から尋ねてきた声に真田は頷く。
「じゃあ行こうか。誠二も暴れまくって大変だろうしね」
最寄りの駅まで迎えに来てくれた笠井竹巳という人物の案内で、真田は歩き出した。





2003年5月9日