<真田一馬とFWによる対談B>





「へぇ、じゃあ風祭は武蔵森にいたのか」
「うん。一年だけだけどね。サッカーの名門だから」
「玉ねぎ終わったらエビとピーナッツもみじん切りな」
「分かった。うちは赤味噌しかないんだけど平気?」
「あぁ平気。でもあれだよな、名門ほど初心者には厳しいから」
「そうなんだよね。武蔵森は一軍から三軍まであるんだけど三軍はほとんど練習らしい練習は出来ないし」
「だから転校したのか?」
「うん。小麦粉これくらいでいいかな?」
「たぶん。ロッサも初心者は入ってもすぐに辞めてく奴が多いし」
「真田君はいつごろ入ったの?」
「俺は小学校3年のとき。それまでは地元のチームに入ってたんだけどそれじゃあ物足りなかったから入団試験受けて入ったんだ」
「そうなんだ」
「みそだれこれぐらいの味で平気か?」
「・・・うん、美味しい。真田君って味付け上手だね」
「んなことねぇよ。結人は俺が入った時にはもういたけど、英士はその3ヵ月後くらいに入ってきたんだ」
「郭君の方が後だったんだ?」
「そう。それからもすぐにレギュラー取れたわけじゃないし、取れたら取れたで上級生からイジメられたりもした。ホント、本気でサッカーやってるわけじゃねぇのにそういうことだけは真面目にやるからさ」
「うん。武蔵森にもいたよ、そういう人」
「でも返り討ちにした。サッカーでもケンカでも。俺には結人と英士がいたし、本気でサッカー選手を目指してるからあんな奴らに負けられないしな」
「環境を変えなきゃいけないことってどうしてもあるんだよね」
「頑張れば出来るなんてのはそう出来る環境にある奴だけが言えるんだよ。出来ない環境にいてそれでも上を望むのなら居場所を変えなくちゃダメだ」
「もっと、自分を生かせる場所」
「そんなのはごく一部だけどな。サバと大根のみそだれかけ、もう出来たぜ」
「オクラとエビのシチューも出来たよ。じゃあ食べよっか」
「いただきます」
「いただきます」
「あ、シチュー美味い」
「ホント?サバも美味しいよ」
「明日は何作る?」
「お隣にインゲンを沢山もらったからそれ使おう?」
「じゃあチャーハンとか和え物とか煮物かな」
「そういえば翼さんが今度一緒に食べたいって言ってたんだけど」
「材料持ち寄りならいいぜ」
「じゃあそう伝えとくね」



いつもは一人で食事を取っている二人。
作るのも食べるのも、誰かと一緒っていうことがこんなに楽しいものだったなんて。
なんだかずっと忘れてた気がする。



二人は顔を見合わせて笑った。





2002年9月18日