「・・・・・・誕生日?」
コクン。
「・・・・・・誰の?」
・・・・・・。
「・・・・・・おまえの?」
コクン。



「・・・・・・・・・マジで?」
猿野天国の呟きに、司馬葵はもう一度コクンと頷いた。





What will I do





「ふぅん、おまえクリスマスイブ生まれだったんだな」
キリストの再来かよ、と笑いながら言う相手に司馬はやっぱり頷いて。
そんな様子を見ながら天国は意地悪そうに口を歪める。
「で?16歳になった司馬は何の用で俺を探してたわけ?」
答えなんて当然のごとく知っているけれど、天国は楽しそうに笑って。
司馬はほんの少し眉を顰めたけれど、何も言わずに沈黙で返す。
しばらく続いた静寂を打ち切るように、天国が座っていた椅子から立ち上がった。
つられて顔を上げた司馬にニヤリと微笑して。
「ま、司馬は俺の誕生日に欲しかったDVDをくれたし、何かプレゼントしないわけでもないけどな」
しばらく前にあった天国の誕生日。
司馬だけでなく野球部の面々は何を贈るかみんな必死で考えて。
ある者は手作り品で勝負したり、またある者は限定数個の品で勝負をしたり。
メッセージカードやら開けば歌うバースデーカードやら、天国の元にはそれこそ数え切れないくらい届いていたのだ。
そんな中、司馬はあまりメジャーではない映画のDVDを贈った。
ただ、入学したての頃に天国がそれを好きだと言っていたことを思い出して。
絶版になっていたそれを何件ものショップを歩き回って手に入れたのだ。
プレゼントを開けたときの天国の笑顔は、今でも司馬の胸に残っている。
「よし。司馬、おまえMD外せ」
突然の言葉に司馬はサングラスの奥の目を丸くして。
だけど天国は気にせずに手を司馬のほうに突き出してくる。
「MD」
単語だけで命令されて、司馬は戸惑いながらもヘッドフォンを外して本体ごと天国の手に渡した。
ブルーラベルのそれを見ながら天国は確かめるようにリモコンを操作して。
「・・・・・・10分、あるかないかか。ま、大丈夫だろ」
早送りをして全曲終了させると、クルリと司馬に向き直った。
今は二人しかいない音楽室。
司馬を生徒用の椅子に座らせて、自分はピアノの脇に立って。
「一曲、歌ってやるよ。それが俺からのプレゼントな」
天国は綺麗に笑った。
MDの録音ボタンを押して、深く息を吸い込んで。
高らかに、歌いだす。



I’m not really sure of the words to say
If only you knew that I feel this way
I wanna give my heart for you
Show me the way that you want to me

I know for sure there’s a place for us
I’m counting the days till I feel your touch
You come to me when I dream at night
When I’m with you it will be so right

If you could see the love in my eyes
You should know that I’m on your side

Ohh ohh ohh
I’d be yours
You be mine
Ohh what will I do



スローテンポで歌が紡がれて。
囁くような声、高くなると少しかすれて。
目を閉じて歌う天国はとても綺麗過ぎて。
足が刻むリズムを体中に覚えこませるように。
甘い、ハスキーな声。



カチャンと録音停止ボタンが押されても、司馬はまだ意識を戻すことが出来なかった。
天国が歌った、歌。
司馬の前で、司馬のために、司馬のためだけに歌ってくれた。
そのことが何よりも胸を熱くしていて。



「ドラマのサントラだからマイナーな曲だけど、俺は結構好きなんだよ」
ウォークマン本体から赤色のMDを抜き出して。
「どことなく、おまえにピッタリな歌だろ?」
楽しそうに笑う天国があまりに艶やかで、司馬は何も言えなかった。
ただ、胸だけが熱くって。
滑らかに流れた英語を置き換えるのに精一杯で。
あぁ、本当に。
彼には敵わない。





「俺は気が長いから待っててやってもいいけど」
一歩、司馬に近づいて。
「その間に他のヤツラに出し抜かれても文句は言えないぜ?」
驚いたように顔を上げた司馬に、ニッコリと微笑んで。
MDを掲げて見せた。
What will I do?



赤色のプレートを司馬の唇に押し当てた。
冷ややかな感触に司馬は目を見開いて。



MD越しに、キスをした。



「Happy birthday, Aoi」



艶然とした微笑と、プレート越しのキス。
それとMDに収められた歌声。
それが彼へのプレゼント。



12月24日。
司馬葵、16回目の誕生日。





2002年12月23日