09:修学旅行の夜





「なぁなぁ俺さ、この前真田がスッゲー可愛い子と歩いてんの見たんだけど、あれって彼女?」
お決まりのように枕投げをしていて教師に怒られた俺たちは、渋々ながらも布団に入った。
そんな中で、隣の布団に寝てる伊沢が突然そんなことを言った。
真田に彼女・・・・・・? それってすげぇニュースなんじゃねぇの!?
「マジ!?」
「可愛いってどんな?」
「あやや系? それともヨッスィー?」
俺らが伊沢に聞くと、伊沢はまぁまぁ落ち着けって感じでわざとらしく手を上下させる。
うるさくするとまた教師が来るかもだけど、今は真田の彼女の方が一大事だろ!
うっわ、これがマジだったら早川とか鈴木とか、他にもたくさんの女子が泣きそうだな。
「系統は判んねーけど、とにかくスッゲー可愛かった。目が大きくてマツゲ長くて」
「スタイルは?」
「それは良くわかんなかった。だけど背は小さかったな。真田よりも20センチくらい低くて」
「すっげ、当たりじゃん!」
当の真田は何でか首を傾げてるけど、でも俺らにとっては十分すぎる。
真田より20センチ低いってことは150センチくらいだろ? それで美少女? うっわ、さすが真田!
いいよなぁ。俺なんか彼女どころか告白されたこともねぇし。
「何だよ、真田って彼女持ちかよー」
「黙ってんじゃねーよ! で? どこまでいった?」
「キスは? もしかしてもうヤッた?」
「うっわマジで!?」
俺らが野次馬根性むきだして詰め寄ると、真田は何でかやっぱり首をかしげて。
「・・・・・・伊沢、それ見間違いじゃないのか?」
俺は彼女なんていないし、そんな女子と歩いた覚えもない。
真田が普通にそう言ったから、つい俺は目を皿にしてしまった。いや、俺だけじゃなくて伊沢や他の奴らも。
じーっと睨んでると一番遠くの布団から枕が飛んできて、真田が慌てて避けた。そしたら伊沢に命中した。
「・・・・・・・・・悪い」
クリーンヒットに笑いをこらえてると、真田は伊沢に謝って、でも伊沢はハハハハとか低く笑いながら顔面にぶつかった枕を握り締める。
「・・・・・・・・・さなだぁ」
「・・・・・・何だよ」
「てめぇ可愛い彼女の存在を秘密にするだけじゃなく俺に枕までぶつけるたぁいい度胸だな・・・・・・」
「いや、枕は俺じゃないって。向こうの竹中で」
「俺は真田をめがけて投げましたー。それを真田が勝手に避けたんですー」
「つーことは真田の所為。そうだ、真田の所為だ!」
「何でだよ!?」
修学旅行特有のハイテンションな展開。だけどこれは乗らずにいられない
騒いで教師が来ようが関係ない。今は幸せを一人で満喫している真田に鉄槌を食らわせることが先!
俺たちはそれぞれ自分の枕を持って、布団の上に立ち上がった。
つられてファイティングポーズを構える真田に、全力投球で。



「「「「「食らえ、抜け駆けヤロー!」」」」」



第二次枕大戦・真田VS俺たちが始まった。
そしてやっぱりうるさい俺たちは教師に怒られ、廊下に正座させられるのだった。





2004年8月23日