06:体育祭





一着のゴールテープを切ったのは、真田君だった。
「うわ、スッゲー真田」
「今一緒に走ったのって陸上部のヤツだろ?」
「真田って50メートル6秒くらいで走れるんだってさ」
「マジで!?」
ろ、六秒!?
クラスメイトの話を聞いていた私は、思わずその言葉に驚いてしまった。
50メートル、6秒? すごい。 私は9秒もかかっちゃうのに・・・・・・。
やっぱりサッカーやってる人って違うのかな。トレーニングとかしてるからかな。
真田君は一位の旗が立っている列に並んで、座って。
このままだとうちのクラスが優勝できるかも、なんて考えていたら。



「あ! 英士、一馬のヤツ走り終わっちゃってるぜ」
「やっぱり。だから早く来ようって言ったのに」
「うるせ。アイツかじゅまのくせに一位だ。ナマイキー」



男の子の声がした。明るい声と、涼やかな声。
思わず振り向いたら、私たちのクラスの場所の後ろに二人の男の子たちが立っていて。
・・・・・・私服ってことは、野上ヶ丘の生徒じゃないよね。だって今日は体育祭だし。
それにこんなにカッコイイ子なら絶対噂になってるだろうし・・・・・・。
茶髪の子も、黒髪の子も、何だかんだ言いながら楽しそうに笑っている。
それをじっと見てたら、茶髪の方の子と目が合ってしまった。
彼は一瞬不思議そうな顔をして、でもニコッと笑う。
「なぁなぁ、一馬のヤツ、他に何の種目に出るか知ってる?」
「・・・・・・結人」
茶髪の子が話しかけてくるのを、黒髪の方の子が諌めた。
黒髪の子は、カッコイイっていうより綺麗かもしれない。だけど、ちょっとだけ近づきにくいかも・・・・・・。
「いいじゃん、英士。なぁ、一馬の種目なんだけど」
「え・・・・・・っと、真田君、だよね?」
一馬ってたしか真田君の名前だったと思うんだけど。
ちょっと不安で、聞いたら男の子は頷いた。
椅子の下からパンフレットを取り出して広げる。
えっと・・・・・・真田君は何に出てたっけ。
「100メートルと400メートルは終わっちゃったから・・・・・・あとはクラス対抗リレー、かな」
「佐奈、真田君なら借り物二人三脚にも出るよ?」
「本当? じゃあそれも」
「そっか。サンキュー」
ニパッて男の子が笑った。うわぁ・・・・・・カッコイイ。
この子と、黒髪の子と、真田君って友達なのかな。
きっとそうだよね。でなかったら体育祭なんか見に来ないだろうし。
「英士、一馬リレーに出るんだってよ」
「アンカー?」
「そうなんじゃね? 一馬だし」
そう言って彼らは二人して笑う。
その姿はものすごく嬉しそうで、自信がありそうで。
彼らが真田君を信頼してるんだってことが、見ている私にも分かった。
「・・・・・なぁ、あれってU-14の郭と若菜じゃねぇの?」
サッカー部の男子がポツンって呟いたのが聞こえた。
400メートル走の全員が走り終わって、真田君が帰ってくる。
こっちを見て、というか私の後ろにいる男の子たち二人を見つけて。
つり目気味の目が大きく開かれて、そして嬉しそうに細められた。



「英士! 結人!」



――――――あぁ、やっぱり真田君もこの二人のことを信頼しているんだなぁ。





2004年6月10日