05:家庭科の調理実習





今日の調理実習のメニューは、ハンバーグ。
付け合せににんじんのグラッセと、いんげんのソテー。
ご飯は先生が炊いてくれるから、私たちが作るのはこの三つ。
・・・・・・・・・なんだけど。
「絵里〜・・・タマネギ切って・・・!」
智美がボロボロと泣きながら包丁を渡してくる。けど。
「ヤダよ。みじん切りなんて出来ないもん」
「私も出来ない。っていうかタマネギ、マジ沁みる・・・・・・」
ゴシゴシ擦るけれど、余計に涙出てるし。
私たちは、ハンバーグの最初の課程でつまづいていた。
っていうか他の班も、みんなタマネギのみじん切りで止まってる。
だってタマネギって切ると目に沁みて涙が出るし、ましてやみじん切りなんて芸当出来るわけないし!
家で少しでもやってれば違うのかもしれないけどね・・・・・・。
あいにく、そんなに出来た子供じゃないから。
あぁでもやっぱりやっておけばよかったかも。
とにかく、辛いけど智美と交換しながら切らなきゃいけないのかな、なんて考えてたら。
「俺が切るよ」
そう言って、真田君が包丁を握った。



タタタタタタタタタタタン
真田君が包丁を持って一分も立たない内に、私たちを泣かしたタマネギは見る影もなくなっていた。
今は、綺麗にみじん切りされてまな板の上に山になってる。
それもサイズが同じ。バラバラじゃないよ。
「すごい・・・・・・」
思わず呟いたら、隣の智美も同じように何度も頷いて。
「次はこれを炒めるんだけど・・・・・・」
フライパンに油を注いで、タマネギの山を包丁でまな板の上から流しいれる。
木べらを握ってる真田君は、ものすごく自然で。
「鈴木、頼んでもいいか?」
「―――あ、うん」
頷いて真田君からへらを受け取る。
切るのは無理だけど、炒めるくらいなら私にも出来るし。
ときどき跳ねるのが怖いけど、どうにかグルグルとかき混ぜる。
「小田はこっちのひき肉に卵を割って、あと塩と胡椒を入れて」
「うん」
「真田、にんじんの皮剥いてくれよー」
「それくらい自分でやれって」
同じ班の男子に向かって、真田君が笑った。
でも結局は包丁の握り方と、皮の剥き方を教えて。
智美が混ぜたひき肉に、私が炒めたタマネギを冷ましてから加えて。
でもってパン粉を入れてグルグル混ぜる。
それを班員分に分けて、みんなそれぞれ自分のを成形した。
焼き方がよく分かんなかったから、やっぱりまた真田君に任せて。
「強火で焼いてから、弱火でじっくり蒸すんだよ」
そうすると旨味が逃げないんだ、って真田君が言った。



完成したのは私たちの班が一番最初で、しかもハンバーグはすごく美味しかった。
真田君の手が加わらなかったにんじんのグラッセと、いんげんのソテーはちょっと不恰好になってたけど。
「真田君って料理すごい上手いんだね。ひょっとして家とかで作ってたりするの?」
サッカーで忙しいと思ってたのに。
そう聞いたら、真田君は困ったように笑った。



彼の家が母子家庭だと、私は知らなかったのだ。





2004年5月25日