03:部活





グラウンドでストレッチをしてたら、校門へ向かう真田を見つけた。
「おーい、真田!」
大声で呼ぶと歩いてた足を止めてこっちを見る。
腕を挙げて振ってみると、真田も小さく振り返してくれた。
「これからクラブかー?」
やっぱり大声で聞けば、遠目の俺にも分かるように真田が首を縦に振って。
「気をつけろよ、また明日なー!」
もう一回頷いて、手を振ってから真田が駆け出す。
大きなスポーツバッグが慣れた感じで揺れていた。



「先輩、あれってもしかして『真田一馬』・・・・・・先輩、っすか?」
俺と同じようにストレッチをしてた後輩二人。
真田が帰っていった方向を見ながら、確かめるように聞いてきた。
「あぁ、今のが真田だ」
俺と同じクラスで、でもってU-14代表の。
そう言えば、案の定こいつらは興味深そうに目をキラキラさせて。
「うっわー俺、初めて見ました!」
「俺も、意外に普通なんすね。いや、普通っていうかー・・・・・・中学生っぽい」
「あれでU-14だなんてスゴイよな。背だって特別高いわけじゃないのに」
「おいおい、真田だって普通の中二だって」
こいつらの話を聞いてると、真田がまるでJリーガーみたいな気がしてきた。
将来はそうなるんだろうけど、今はまだ真田だってクラブユーズに通うただのサッカー少年で。
黒と白のボールを持たせてなければ、結構カッコイイただの中学生だ。
・・・・・・・・・カッコイイってだけで、『ただの』じゃないかもしれないけどさ。
「俺、真田先輩がサッカー部に入ってないって知って、結構ショックだったんすよー」
後輩のうち片方が、溜息つきながらストレッチに戻る。
「俺も。真田先輩と一緒にサッカー出来ると思ってたのにさ」
「クラブだったなんてなぁ」
がっくりと肩を落としてる。でも俺も同じことを考えた過去があるから、適当に苦笑しといた。
小学生の頃からアンダー代表になってる真田は、俺たちの年代でサッカーしてるヤツの間では結構有名だ。
かくいう俺も同じ中学に真田がいるって知ったときはめちゃくちゃ驚いたし。
とっつきにくいヤツだと思ってたら、意外にもそうじゃなかった。結構静かだし、でもやることはちゃんとやるしな。
「そう嘆くなって。スポーツ大会じゃ真田はサッカーに出るからさ」
っていうか強制的にサッカーにさせられてるんだよな。
サッカー部のヤツとかはサッカーに出れないし、バスケ部のヤツらはバスケに出れないけど、真田はその点書道部だし。
(俺たちの野上ヶ丘中は全員部活に入るのが鉄則だ。帰宅部はないから、真田は週一しか活動のない書道部に入ってる)
だからスポーツ大会のサッカーは、ほとんど真田の独壇場。
去年も俺は真田と同じクラスだったけど、一年のくせに決勝まで勝ち進んで見事優勝を飾ったしな。
今年もたぶん、同じことになるんじゃないか?
そう言ったら、後輩たちはものすごく嬉しそうに奇声を発した。
「やった! 俺、真田先輩のサッカー見るの初めてだ!」
「俺も! よっしゃ!」
全身で喜ぶ後輩たちは、まだまだ先のスポーツ大会までのカウントダウンさえ始めそうだ。
だけど楽しみなのは俺だって同じ。



真田のサッカーは、夢を見せてくれるサッカーだからな。





2004年3月25日