02:傘忘れたの?





「あー・・・・・・」
昇降口の軒下で、私は溜息をついた。
目の前では、ポツポツと空から降ってくる雫が地面を濡らしてる。
どうしようかな、と考えていたら、霧雨だった雨が突然どしゃ降りになって。
私はもう一度溜息をつく。
「・・・・・・サイアク」
傘なんて、持ってないのに。
今日、朝はすごくよく晴れてた。
空とか真っ青で、雲も一つもなかったのに。
それなのに、今はどしゃ降り。
「天気予報のバーカ」
思わずそう言って下駄箱を蹴り飛ばした。
先生とか見てたら何か言うかもしれないし、親が見てたら「女の子が何てこと!」って怒るかも。
でも今は誰も見てないし。
あーあぁ、部活も早く終わったし、さっさと帰ってドラマの再放送見たかったのに・・・・・・。



「・・・・・・・・・早川?」



「!?」
いきなり声をかけられて、慌てて振り向いた。
誰もいないと思ってたのに。だから下駄箱だって蹴ったりしたのに!
振り向けば、同じクラスの男子が立ってて。
「・・・・・・・・・真田」
「・・・・・・よぉ。早川も今帰りか?」
「え、あぁ、うん、そうだけど」
気まずくて思わずどもるけど、でも真田は全然気にしてないみたいで下駄箱から靴を取り出す。
あ、その靴ってナイキの限定。兄貴が欲しがってたっけ。
「あ、雨降ってる」
上履きからスニーカーに履き替えて、真田が言う。
屈んでたからちょっと上目遣い。
・・・・・・・・・うわぁ。
「結構降ってるな」
真田が立ち上がる。そうすると背が高いから、私の目線には真田の首あたりが見えて。
見上げると真田の横顔が見える。
「・・・カッコイイ・・・・・・」
さっきの上目遣いはちょっと子供っぽくて可愛かったけど。
「? 何か言った?」
「え? あ、何でもない!」
否定すると真田は不思議そうに首を傾げてから外を見る。
私は思わず肩をなでおろしてしまった。
カッコイイって、真田がカッコイイのは当たり前かもだけど、それを本人に聞かれるのはかなり恥ずい。
っていうか・・・・・・。
もう一度真田を見上げて、私はやっぱり心の中で思う。



真田が女子から人気あるのって、判るよねー・・・・・・。



「早川は、傘忘れたのか?」
「っていうか、朝はあんなに晴れてたんだから傘持ってるわけないって」
「あー・・・・・・」
真田はちょっと、頬をかいて困ったように笑った。
「悪い。俺、持ってる」
そう言って鞄の中から折り畳み傘を取り出す。
「――――――なんでぇ!? 真田、それオカシイって!」
「可笑しくないって。今日は夕方は雨降るって言ってたから」
「えー私が見たニュースは全部降水確率0%だったよ」
「いや、ニュースじゃなくて」
少し考えてから、真田が笑った。
何かちょっと照れてる感じで、苦笑してて、でもどこか嬉しそうに。
「俺の知り合いで、天気予報がすごい良く当たるヤツがいるから。そいつに聞いたんだ」
そのとき、あんまりにも真田が綺麗に笑ったから。
「――――――カノジョ?」
思わず聞いてしまった。



結局。
あの後、雨が止まないから真田が送ってくれて、相合傘とかしちゃったりした。
それを見てた子がいるらしくて、次の日の学校ではいろいろ聞かれたし。
でも役得だったからいいや。うん、だって真田と一緒に帰れたんだしね。
真田って、なんか存在が綺麗だから遠い感じって思ったたけど、話してみたらそうでもなかった。
優しいし、カッコイイし、かなり良いかも。



カノジョいないって言ってたし、本気で狙っちゃおうかな。





2004年3月21日