01:桜の下で出逢い





今日から俺は、中学生になる。
これからは部活とかやって、でもって彼女とか作って、楽しい中学ライフを送るんだ!
今まで背負ってたランドセルじゃなくて、藍色のブレザーが大人になった証。
よっしゃ! これから青春を謳歌してやるぜ!
周囲の俺と同じ一年を見回しながら校門を過ぎて、入学式をやるらしい体育館まで歩いていく。
母さんは後から来るって言ってた。いいのによ、別に来なくて。
フェンス越しに植えられている桜の木が、ひらひらとピンクの花を散らしてる。
髪や制服についてウザイと思ったとき、俺の視界にその人が飛び込んできた。
俺と同じ藍色のブレザーを着た、男。



黒い髪が風に舞い上がって、桜の花びらが彩る。
シャッターを切りたくなるような一瞬。



「ねぇ、あれって真田先輩じゃない?」
俺の横で、同じ一年っぽい女が言ってる。
チラッと見てみれば、ちょっと顔を赤くしながら桜の木の下にいるあの人を指差してて。
「真田先輩って、あのサッカーやってる?」
「そうそう! 中学生の日本代表に選ばれたことがあるんだって!」
「嘘、それってスゴイんじゃないの!?」
「スゴイんだよー! それに、本人って初めて見たけど・・・・・・」
「うん、何か・・・・・・」
その先は聞かなくても分かった。



桜の木の下で、友達らしき人と笑い合う『真田先輩』。
俺は、男でこんなに目を惹く人を、初めて見た。
中学生ってみんなこんなにカッコイイのか・・・!?
(いや違う! 絶対に真田先輩だけだ!)



それから俺は、自分の足で体育館に行って椅子に座ったらしいけど、そのときのことは全然覚えてない。
校長が長ったらしい挨拶をしている間も、さっきの『真田先輩』の姿を思い出してしまって。
背、高かったな。170センチくらいあんのかな。
名札の色が黄色だったから、二年だよな? 何組なのかな。部活とか入ってんのかな。
さっきの女子がサッカーやってるって言ってたし、サッカー部か?
あ、でも中学日本代表っていうくらいだから、部活じゃなくてクラブとかでサッカーしてんのかも。
日本代表だって。日本代表だってさ! うっわーすげぇっ! カッコイイ!
顔も、同じ男の俺から見ても整ってたし、きっとモテるんだろうなぁ。
羨ましい・・・・・・・っていうか、すげぇ。
もうそれしかないって。



真田先輩、カッコイイ。



すげぇ。



これから始まる俺の中学生活。
部活も彼女も後回しでいいや。とりあえず、カッコよくなれるように頑張ろう。
真田先輩みたいに、立ってるだけで人の目を集められるように。
・・・・・・・・・無理かもだけど、目指すだけなら勝手だ。
決めた!



俺は『真田先輩』みたいな男になる!



春、入学式、桜の木の下。
俺は運命的な出逢いをした。





2004年3月20日