8月20日は真田一馬の誕生日。





Thanks a lot!





「「「「「真田、誕生日おめでとー!」」」」」
朝食を取りに食堂へ降りてきたら、盛大なるクラッカーと歓声に見舞われた。
ぱちくりと釣り目がちの目を瞬く真田に、周囲はしてやったりの表情で楽しそうに笑う。
小島明希人は微笑ましいものを見るように一歩前へ進み出て、真田に向かって笑いかけた。
「2004年8月20日、真田の20歳の誕生日。俺たち柏レイソル選手一同、心よりお祝い申し上げます」
「え・・・・・・」
呆ける真田の後ろから肩を掴むのは、ディフェンダーの先輩。
「要はおめでとうってことだろ! ほら、ケーキの準備も出来てるんだぜ!」
「食堂のおばちゃんに頼んで特別に焼いてもらったんだから、しっかり食えよ?」
あれよあれよとチームメイトたちに引っ張られて、座らされたのはサッカーゴールを形作ったケーキの正面。
ぽかんとしている間にも話はどんどん進んでいって、気がつけば同僚が勢ぞろい。
「ロウソクはもちろん20本! それではレイソル一同、心をこめて歌います!」
手振りの指揮と共にどことなく音の外れた『ハッピーバースデー』の歌が始まる。
男ばかりの野太い声で、しかも誰もが楽しみながら歌っているから変にこぶしがかかったりしていて。
聞いているうちに真田も思わず笑い出してしまった。
それを見てチームメイトたちも満足そうに笑う。
「「「「「ハッピバースデー・トゥー・ユー! 真田、おめでとー!!」」」」」
「・・・・・・ありがとう」
照れたように笑って、真田は周囲に勧められるままにロウソクへ向かって息を吹きかける。
見事に一度で消えた火に、大きな拍手が沸き起こった。



「真田、宅急便が届いてるぞー」
コンコン、と自室のドアをノックされて、真田は慌てて立ち上がりドアへ駆け寄る。
開けば寮の隣室で、入団してからずっと目をかけてくれている明希人が、段ボール箱を二つ抱えて立っていた。
「すみません、明希人さん。わざわざありがとうございます」
「どういたしまして。これも全部プレゼントみたいだな」
「うわ・・・・・・」
呟く真田に明希人は首を傾げた。
けれど室内の奥に空のダンボールが山積みにされていることから、その意味を悟る。
「何個目?」
「・・・・・・12個目です」
「それだけ真田が好かれてるってことだよ。お邪魔しまーす・・・・・・うわ、このアルマーニのスーツもプレゼント?」
「はい、椎名からの」
「あぁ、イタリアのセンターバック」
入ってきて開封されたプレゼントの山を眺める明希人に、真田もドアを閉めてその手から新たなダンボールを受け取る。
宅配票を剥がしてからガムテープに刃を入れ、中身を取り出したら底も解体して薄く潰す。
その間にも明希人はプレゼントに一通りチェックを入れ、感心したように深く頷いた。
「貢がれてるなぁ、真田」
そう言って明希人が抱え込む羊型の特大ビーズクッションは、日生光宏からの贈り物である。
「別にそういうわけじゃ・・・・・・」
「お、電化製品のカタログギフト。これは誰から?」
「風祭です」
「あー・・・・・・なるほど。さすが判ってる」
カタログに載っているものから何でも選べるチョイスギフト。
受け取る側にとってはありがたいそれを贈るあたりに、風祭の気配り―――厳密にいえば主婦加減―――が窺える。
明希人は楽しそうに笑いながら、真田の手元を指差した。
「それで、今きたのは何?」
「枕型マッサージャーみたいです。これは中学のときに知り合った、他校の先輩からですけど」
「その人は今はサッカーやってないの?」
「武蔵森で全国制覇した後は、スポーツ医学が学びたいってそっちの道に」
「お、真田に専属医師がつく日も近そうだなぁ」
二人は軽く笑い合うが、真田は完全にそれを冗談だと捉えていて、方や明希人は八割方本気で言っている。
どちらに軍配が上がるかは、数年後に持ち越しだろう。



国内だけではなく、海外からもはるばるやってくるプレゼント。
それらはすべて日付指定で8月20日を外すことなくやってくる。
だって一日でもずれたら意味がない。



8月20日は、真田一馬の誕生日なのだから。



プレゼントの山に囲まれながら二人で他愛も無い話をしていると、他のチームメイトによって宅急便が数個運ばれてきた。
御礼を言って受け取り、弱った顔をしながらも嬉しそうに開封する真田に、明希人は柔らかく笑う。
彼にとって妹と同じ年である真田は、ただのチームメイトよりも身近な、いわば弟のような存在。
構って遊んで育ててやりたい、可愛らしい弟なのである。
「若菜や郭とは夜にメシ食いに行くんだって?」
真田は話しかけられて、山口からの贈り物であるDVDプレイヤーの説明書から顔を上げた。
ゆっくりと浮かべる笑みは照れくさそうな青年のもの。
外ではあまり素顔を見せない真田のこんな表情を見ることが出来るのは、きっと同じチームに属して寝食を共にしているおかげだろう。
撫でたくなった衝動を抑えずに、明希人は真田の黒髪を手で撫ぜた。
首をすくめて真田が答える。
「管理人さんに外泊届けを出してあります。ユンも来てくれるっていうから、一晩遊びぬこうって」
「ユン?」
「あ、スペインの李潤慶です。韓国代表でもあるMFの」
「じゃあ久しぶりに幼馴染が全員集合か」
「はい」
嬉しそうに笑う表情は、本当に特別仕様。
まだまだ敵わないなぁ、と明希人は頬を掻く。
抱えていた羊クッションを脇にやり、ごそごそとポケットを漁って。
少しよれてしまったリボンを調え、すっと前に差し出した。
きょとんとする後輩に笑顔を浮かべる。



「お誕生日おめでとう、真田」



男にしては細い指が、プレゼントを受け取っていく。
直接渡されるのは今日初めてなのか、真田はじっとそのプレゼントを見つめて。
次の瞬間浮かべられた表情に、明希人も満足気に頷いた。



Happy Birthday to you!





2004年8月20日