君の事を心から思うよ。
出会うことが出来て本当によかった。
きっと世界で一番愛してる。





Affections





ピンッポーーーン
福島県にある合宿施設、Jヴィレッジの202号室にインターホンの音が響いた。
「・・・誰だろう?」
藤代と鳴海は見合わせて首を傾げ、一番扉の近くに居た風祭がドアへと走る。
「はーい?」
返事とともにガチャリとドアノブを回すと、
「どうも、こんばんは〜」
「・・・・・・スッ、スガさん!?」
開けた扉の向こうに居たのは、風祭よりも40cm以上背の高い人物で。
「ごめんね〜突然来ちゃって」
「えっ、あ、いえ、大丈夫ですけど・・・。何か御用ですか?」
意外な人物の来訪に驚きながらも風祭が尋ねると、相手は少しだけ笑みを深くして微笑んだ。
「ん〜いやちょっとね・・・ここって真田一馬君の部屋だよね〜。彼、今いるかな?」
「えっと・・・・・・」
須釜に尋ねられて風祭は困ったように返事を返す。
「真田君は今ちょっといないんですけど・・・」
「あ〜・・・そうなんだ」
顔は笑顔を浮かべているけれど、その声は残念そうな響きを含んでいて。
須釜はそのまま後ろを振り返る。
「真田クン今いないみたいですよ〜。どうします〜ケースケ君?」
背の高い須釜に隠れて見えなかったが、そこにはもう一人の姿。
その人物は迷った風に頭をかいて、
「うーん・・・あのさ、真田がどこ行ったか知ってる?」
尋ねられて風祭は『ちょっと待ってて下さい』と一旦部屋の奥へ引っ込んだ。
そしてすぐに戻ってくる。
「真田君は今お風呂に行ってるみたいです」
「そう、ありがと〜」
「あれー? 誰かと思ったら須釜じゃん。おぉ山口まで!」
来訪者に興味を示して出てきた藤代が2人を見て声を上げる。
「何、2人とも真田探してんの? じゃあここで待ってればいいじゃん。もうちょっとすれば真田も帰ってくると思うし」
「いいんですか〜?」
須釜が聞き返すと風祭が笑って中へと促す。
「もちろんですよ。どうぞ」
「それじゃあ、お邪魔しま〜す」
「・・・お邪魔します」
須釜寿樹、山口圭介、202号室へご案内。



その場にいた藤代と鳴海に風祭、やってきた須釜に山口も簡単な自己紹介なんかをしたりして。
「真田クンって何時ごろにお風呂に行ったんですか〜?」
「えーっと、たぶん30分くらい前だと思いますけど」
時計を見ながら須釜が尋ねると、同じように時計を見ながら風祭が答えを返す。
「郭や若菜と一緒に行ったのか? うわーそれじゃ長くなりそう」
山口が半ば諦めたように一馬のベッドに腰掛けながら天井を仰ぎ見る。
「あいつら長風呂だからなー」
「へぇ、若菜とか意外と早く出てくるイメージがあるけどよぉ」
藤代の同意に鳴海がそう言うと、藤代は『全然!』と手を振って。
「あいつら三人ともめっちゃ長風呂だって! 以前別の合宿で一緒に入ったとき俺びっくりしたし」
「三人して湯船につかりながらのんびり会話してるんですよね〜」
「じじくせぇ・・・」
鳴海が呆れたように悪態をつく。
風祭はそんな会話を聞きながら微笑んでいる。
「真田君たちって、三人ともすごく仲がいいですよね」
その台詞に須釜と山口は少しだけ目を丸くして、須釜はクスクスと笑い、山口は拗ねて唇を尖らせる。
「そうですよね〜。本当に仲がいいですよね〜」
「つーか仲よすぎ。いっつも三人でいるからロクに真田と話せないし」
「あー俺も俺も! 俺も真田と話したいんだけど、あの2人がいるとなぁー・・・」
山口の意見に藤代が勢い良く手を上げて賛成を示す。
「ちょっと真田に話しかけようとすると、いっつも邪魔されるし」
「すごいですよね〜。バリケードが」
須釜も何度も深く頷く。
「あ、だから部屋まで真田君に会いに来たんですか?」
風祭が尋ねると、須釜と山口は大きく首を縦に振った。



「つーか何か? お前ら部屋に来るほど真田と喋りたいのかよ?」
鳴海の質問にも2人は首を縦に振って返す。
「信じらんねぇ・・・」
ぐったりとした様子で鳴海が呟く。
「だって真田だぜ? あいつ何にでもキャンキャン吠えるし、甘ちゃんじゃねぇか」
「う〜ん、まぁそんな事もないですよ〜?」
苦笑して須釜が話す。
「確かにサッカーに関しては少し余裕がないみたいですけど〜、それも時間が経てば変わるでしょうし」
山口もそれに頷いて、
「それに真田が甘ちゃんって訳じゃないしな。たぶん、郭と若菜が甘やかしまくってるからそう見えるんじゃん?」
「・・・真田が甘えてるんじゃなくてか?」
鳴海の胡散臭げな視線にも須釜と山口はいたって平然と頷く。
「あいつらはーアレだよな。真田がいなきゃ駄目なんだよ」
「だからついつい甘やかしちゃうんですよね〜。ずっと傍にいて欲しいから」
「そんなことする必要ないのにな、郭と若菜なら」
少しだけ悔しそうに、羨ましそうに2人は話す。
と、今まで大人しく話を聞いていた藤代が口を開いた。
「・・・・・・郭は全然違うんだけどさぁ、若菜って一対一で話すときはかなりオープンな奴じゃん? でもやっぱり郭と真田と三人でいるときは、何でか他の奴を寄せ付けないんだよな」
「確かに、そういう所もあるかな・・・」
風祭も三人の様子を思い出しながら話に加わる。
「根本的な不安があるんだと思いますよ〜。いつか真田クンが自分たちから離れて他の場所へ行ってしまうんじゃないかってね〜」
「真田がか?郭や若菜が愛想尽かすんじゃなくて?」
「そうですよ〜。弱そうに見えて、実は真田クンって強いですから〜」
「日常生活の中で、郭と若菜は結構真田に依存してるしな」
冷静な分析眼を持って話を進める須釜と山口。
それを聞いて頭を抱える鳴海に2人は小さく笑って、
「今度、ゆっくり真田クンを見てみるといいですよ〜。プレイだけじゃなくて他の行動とかも〜」
「知らない真田が見つかって驚くぞー?」
楽しそうに言われて、鳴海も風祭もそうしてみようかな、と軽く心に留める。
でもさー、と藤代は不満そうに、
「いくら郭と若菜が不安に思っても結局真田はあいつらから離れないんだろうからさー、俺にだってちょっとは真田と話しさせてくれてもいいと思うんだよなぁ」
「あーそれは思う。つーか、真田と話してみたいって思ってる奴って結構いるよな。」
「意外と聞き上手ですしね〜、真田クンは」
「そういえば、桜庭君や上原君もそんな事言ってたかも・・・」
藤代と山口の会話に風祭もチームメイトの話を思い出す。
「お前らはいいじゃん、同じ都内だし選抜も一緒なんだからさ。
俺なんかトレセンやら何やらで年に1・2回会えればいい方なんだぜ?」
そう言って山口が肩を落として溜息をつく。
「そうですね〜僕はユースで試合なんかしたりしますから、三ヶ月に一度の割合ですね〜」
「電話やメールもいいけど、やっぱり実際に会って話とかしたいしなー」
山口の言葉に須釜もうんうんと頷く。
しかしそれを聞いて驚いて立ち上がったのは藤代で。
「えっ!? 何、山口って真田の電番やアドレス知ってんの!?」
「うん、まぁ一応」
「僕も知ってますよ〜v」
あっさりと認める山口にのほほんと笑う須釜。
「何でだよー! 何で同じ選抜の俺が知らなくてお前らが知ってるわけ!?」
「それは勿論、聞いたんですよ。真田クンに」
「郭や若菜がいるのによく聞けたな・・・」
鳴海がどこか疲れた顔で突っ込みをいれる。
「以前の合宿のときにず〜っと狙ってたんですよ〜。あの2人と別行動して真田クンが一人になるのを」
「そうでもしないと聞けないしな」
「ズルイー! 俺も真田に聞くー!」
「・・・あいつが帰ってきたら聞けばいいだろーが」
騒ぎ出す藤代に鳴海が言い捨てる。
その4人の話を聞きながら、風祭は楽しそうに微笑んだ。
「スガさんと山口君は、本当に真田君のことが好きなんですね」



「そりゃもう当然」
「愛しちゃってますからv」





「須釜に山口・・・? お前ら何でここに・・・・・・?」
ガチャリと扉を開けて入ってきた一馬に藤代が飛びついた。
「ねー真田! 俺にも電番とアドレス教えて! 俺のも教えるから、ね!?」
「は? イキナリ何言って・・・?」
ドライヤーで乾かされたのか、一馬の髪がいつもよりも柔らかそうにふんわり揺れる。
「よーっす、真田。久し振り!」
「お邪魔してます〜v」
「あぁ・・・久し振り・・・?」
須釜と山口の2人に満面の笑みで挨拶され、一馬も訳が判らないながらも返事を返す。
あぁ僕らにとってはそんな些細なことが本当に幸せ。



彼の隣は居心地がよくて本当に素敵。
誰よりも何よりも愛してる。
近くに行きたいと願っている。
だからずっと、君が幸せでありますように。





2002年8月6日