恋に理由が必要ですか?





背は小さいし、運動神経は良くないし、かといって勉強が出来るというわけでもない、ミニサイズの生き物。救いといえば負けず嫌いなところと、素直な擦れていない性格、それと可愛らしい顔くらいのもの。確かに自分は彼に卓球の素質を見たけれども、やっぱり不服だ。不服だとしか思えない。
「ねぇ、あの子、君の何なの?」
「えっ? 何、アキラ君」
ヒロムが特有の触角のようなアホ毛を揺らして振り返る。彼は初対面の印象を引きずっているらしく、女だと知った今も自分のことを君付けで呼んでくる。別にそれが嫌なわけではない。私服ではボーイッシュなものしか着ないし、自分が女らしい体型には程遠いことをアキラは一応理解している。だけど将来的には。そんなことを考え、アキラはふるふると頭を振った。何か余計なことを考えた。きょとんと首を傾げているヒロムに、アキラは再度問いかける。
「この前卓球場に一緒に来てた子、君の何?」
「あぁ! 眞白君だよ。おんなじ卓球部の」
「違う。眞白裕也は知ってるよ。もう一人いた子」
「もう一人・・・・・・?」
「女の子だよ。髪の長い・・・・・・綺麗な」
そっぽを向いて告げる。思い出すのは背の高い、綺麗な黒髪の女の子だ。中学生とは思えない良いスタイルをしており、自分との差を考えると少し悲しくなる。ちらりと胸を見下ろしても凹凸はほとんどない。これならヒロムが自分を男と間違えるの当然で、そのことが更にアキラに追い討ちをかけた。けれどそんなこといざ知らず、ヒロムはぽんっと手のひらを叩いて喋り出す。
「乙女ちゃん!」
「・・・・・・おとめちゃん」
「うん、僕の幼馴染。幼稚園に入る前から一緒なんだ」
にこにことヒロムが笑うが、アキラは更に不機嫌になった。自分は「アキラ君」で、彼女は「乙女ちゃん」。その差は何から来るものなのだろう。やはりスタイルか。スタイルなのか。アキラは少し落ち込んだ。別に自分が嫌いなわけではないが、好きな人に女扱いされてないと思うとさすがに凹む。
「・・・・・・好きな人?」
はた、と自分の思考をアキラは反芻する。何だそれ、と思う。好きな人。好き。好き? 好き? 誰が。誰を。好き? ・・・・・・す、
「好き?」
「ひゃあっ!?」
「わぁっ!?」
ヒロムの声が耳元で聞こえて、思わずアキラは叫んでしまった。それに驚いてヒロムも叫び、二人してわたわたと騒ぎ出す。ヒロムは特にそばにいたわけではない。ただ、考えていたことをそのままに呟かれてしまい、そう感じてしまっただけなのだ。動揺しただけ。どきどきとうるさい心臓をアキラは押さえる。顔が熱くなっていく。真っ赤になっているのが分かって、慌ててヒロムに背を向けた。こんな顔、見せられるわけがない。
「・・・・・・アキラくーん?」
ちょこんとアホ毛を揺らして、ヒロムが後ろから尋ねてくる。全身の熱を治めるのに精一杯で、まだ振り向くことは出来ない。
とりあえずこれから会うときは常に制服で、自分が女だということをヒロムに意識させよう。アキラはそう心に決めながら、必死に赤い両頬を押さえていた。





半年以上前に書いた話なので色々違ってます。ヒロム君は将来きっと格好良くなる。
2006年12月11日(2007年7月21日mixiより再録)