【「サラダ船長がゆく!」を読むにあたって】

この話は、コミックス56巻86ページのSBS「性別が逆転した麦わらの一味」から派生したネタです。つまりルフィが中身はいつものルフィですが、身体はイワちゃんの技法で女の子になっています。
微妙に白ひげクルーたちのテンションが高かったり、他にもいろいろ大変なことになっていますが、そういったものが嫌な方は決してご覧にならないで下さい。何でも大丈夫という方のみお付き合いいただければ幸いです。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでも駄目だと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼


































エースを奪還し、勝利を手にし、海軍から全速力で逃げる航海。仲間と合流するためシャボンディ諸島に向かうと言ったルフィに対し、イワンコフはうむむむ、と両腕を組んで頭をめぐらせた。止めても無駄なことは、すでにこの短い付き合いでも十分すぎるほどに理解している。かといって諸手を挙げて賛成できるかと問われれば、答えは否だ。ルフィが同胞であるドラゴンの息子である以上、イワンコフには彼を無事に仲間のところまで送り届ける義務がある。実のところはこのまま革命軍のアジトに連れて行ってドラゴンと顔合わせをさせてみたいなんて思ったりもしているけれども、楽しみは先に延ばした方がより一層期待を増してくれるだろう。いいわ、とイワンコフは麦藁帽子を見下ろして頷いた。
「麦わらボーイ、ヴァナタをシャボンディ諸島まで送ってあげる」
「ん。ありがとな、イワちゃん」
「皆まで言わなッキャブル! いいこと、麦わらボーイ! ヴァナタは全世界に指名手配されてんのよ!? 世界政府の強大さを分かってんの!? 白ひげ以上の懸賞金がかけられたって可笑しくなキャブル!」
「へぇ、そうなのか? ししし、手配書が楽しみだな!」
「ヴァナタのそんなところは素敵だけれど、今はこれ以上の騒動は避けるとき!」
「そうだな。これ以上時間かかってたら、あいつら待ちくたびれるしな」
「そう、だからこの先はヴァナタが『麦わらのルフィ』だってばれないようにする必要があるッキャブル!」
「何だ、それ。どうやんだ?」
首を傾げたルフィに、イワンコフはにやりと笑った。カマバッカ王国の女王陛下は、時として革命家の総大将であるドラゴンに揶揄さえ送るつわものなのである。





サラダ船長がゆく!





「エースーっ!」
逃亡の旅路だが、祝杯も落ち着き、のほほんと時の流れている甲板にそれは突っ込んできた。麦藁帽子がゴムを利用して一瞬で白ひげの視界を左から右へと横切っていく。しかし微妙な違和感を残像に感じ、視線をやれば案の定、エースの背中に弟であるルフィが張り付いていた。自身を模した刺青がすっかり隠れてしまっているが、じゃれつく兄弟の姿は見ているこっちが微笑ましい。どうせエースも「飛びついてくるなよ」なんて言いながら、蕩けそうに甘い顔で弟の頭でも撫でるのだろう。白ひげは椅子に背を預けながらそんな想像をしていたが、いつまで経ってもエースが背中のルフィを振り返る様子はなかった。不思議に思ったのか、白ひげだけでなくルフィの麦藁帽子の後頭部も斜めに傾げられる。
そこでようやく、白ひげは先ほど感じた違和感の訳に気がついた。弟じゃなく妹だったのか、と的外れなことを思うわけがなく、ホルモンを自在に操る悪魔の実の能力者を脳裏に描く。確かにこれなら海軍どころか世界中の目を欺くことが出来るだろう。硬直しているエースの背中にひっついているルフィは、今や完璧な少女となっていたのだ。
「グラララ・・・! 小僧、おまえ女だったのか」
分かっていながら声を投げかければ、エースの身体に回した腕はそのままにルフィは白ひげを振り返る。もともと小作りな顔が、今は殊更に小さく化している。眉毛は細く、睫毛は長く綺麗なカーブを描いており、それでも変わらない左目の下にある傷だけが確かな証拠だ。マリンフォードでは敵を威圧した大きな瞳も心なしか黒目がちの柔らかなものになっている。気味が悪い、なんてことよりも先に可愛いという感想が浮かんできたのは、元が十七歳という成長過程の少年期だったからだろうか。エースの背中にべっとりと抱きついているルフィは、それは見事な異性への変貌を遂げていた。答える声すら鈴を鳴らしたような高いものだから、もう見事としか言いようがない。
「違うわ。これはイワちゃんが、海軍にばれないように変装させてくれたの」
「言葉遣いまで違うのか。随分と徹底してるな」
「そう? 私は普通に喋ってるつもりなんだけど、えっと、ホルモンの力? そういうので全部変わっちゃうんだって。すごいよね、ふふふ!」
つまりは今の台詞も「そうか? 俺は普通に喋ってるつもりなんだけどよ、ホルモンの力? それで全部変わっちまうんだってさ。すげぇよな、ししし!」とルフィ自身は喋っているつもりなのだろう。だとしたら実に完璧な悪魔の実の能力だ。さすが世界政府を相手に一歩も引かない革命軍で幹部を張っているだけのことはある。白ひげは心中でイワンコフを見直した。そして未だぴくりとも動かない、「妹」であるルフィに抱きつかれているエースを思い、失笑する。
「・・・弟君、何で女に生まれなかったんだよい」
しかしそんなふたりの様子を生温かい目で見守ってやれないのは、マルコをはじめとした他の白ひげ海賊団のクルーたちだ。正確に述べるのならば、まだ愛情と性欲が割合とストレートにイコールで結ばれてしまう、ある種健やかな男性陣だ。思わず呟いてしまったマルコに対し、ルフィが顔を向けてくる。傾げられる首は細く折れそうだし、先程の海軍との戦いで負ったいくつもの傷には純白の包帯が巻かれており、健康的な肌色とのコントラストが返って扇情的に目に映る。うにゅ、とエース自慢の背中の刺青に押し付けられている胸はどう見たって腰の細さに見合わない巨大さで、すげぇよい、とマルコは思わず感嘆してしまった。まぁ何と言うか、ナイスバディだ。それこそ海賊女帝にも負けないだろう、出るところは出ているダイナマイトボディ。若さゆえか肌は張りがあって瑞々しいし、かと思えば首の上に載っているのはいとけない少女の面立ち。まだまだ女性には至らない、輝いた純粋な瞳は成熟した身体とのアンバランスさが絶妙で、見る者にやましい倒錯を与える。ぶっちゃけ、えろい。あー・・・とマルコは頭を掻いた。
「いや・・・やっぱり弟君、男に生まれて正解だよい」
これで本当に女だったら海賊どもで取り合いになってたよい。マルコの脳裏に海賊王もとい海賊女王になって君臨するルフィの姿が容易く浮かんだ。傅く己の姿すら連なってしまい、洒落になんねぇよい、とマルコは痛む頭を押さえながら腰掛けていた酒樽から立ち上がる。エースは未だ動けない。むしろ呼吸すら危ういのではないかと思わないでもないが、とりあえずマルコは兄弟もとい兄妹に近づいた。ホルモンの作用で骨格ごと変化しているのだろう。もともと見下ろす身長が、今は更にその差を広げている。つまりマルコの視点からは、ルフィの豊かですべすべのぎゅうっと押さえつけられることで逆に破壊力を増している胸の谷間が実に麗しく臨めるわけで。
「・・・・・・とりあえず、弟君。これ、着とけよい」
海楼石の手錠を嵌められていたときよりもぎこちない仕種で己のシャツを脱いだマルコに、やはり白ひげが薄く笑った。上半身裸ではエースと似たような格好になってしまうが、今はそんなことは些細過ぎる問題だ。とにかく一刻も早く、この目の前の恐るべき武器を隠さなくては。男にとってはどんな覇気よりも威力のある、凶悪な武器を。しかし元は男であるはずなのに、そういったことに一切頓着を見せないルフィはやはり首を傾げるだけだった。
「何で? 私、ちゃんと服着てるよ?」
「でもボロボロだろい。今は女なんだから、それは可笑しいだろい」
「そう? じゃあ着替えるわ」
「だっ! だからってここで脱ぐんじゃねぇよい!」
ベストのボタンに指かけた手をマルコは慌てて掴んで止めた。しかし僅かにずらされただけで、大きさに耐えられなかったのだろうボタンは簡単につるんと穴をすり抜けて役目を終わらせてしまう。いきなり大きく開かれた胸元は、もはや谷間どころの話ではない。うおおおおお、と船を揺るがす叫びは男たちの性だ。例え本来の性別が自分たちと同じであろうと、今ここにいるのは非常に可愛らしい女の子。重要なのはそれだけだ。それだけが世界で何より重要だ。ぶるん、とたわわに揺れる最強兵器が完全に姿を現さないうちに、マルコは持ち得る最高の速度でもってシャツをルフィの身体に被せた。途端に歓喜の絶叫が怒号のブーイングに変化する。
「何でだよマルコ隊長!」
「ああああちくしょー! 俺のエデンがーっ!」
「ちょ、頼んますって! よっマルコ隊長! 世界一のいい男!」
「自分だけ見てんじゃねーっすよー!」
「うるせぇよい! そんなに見たけりゃナースの足でも拝んでろい!」
「あいつら女豹っすよ! 全然癒されねぇ!」
「癒しが欲しいんすよー! 清純な若い子がいいんすよぉ!」
「ルフィちゃーん、こっち向いて!」
「何? ふふ、みんなおかしいの」
少年のままだったら普通の所作だっただろうに、少女の今やってしまえば、それはすべて純然たる魅了だ。楽しそうに笑ったルフィを目にした男たちは、海賊女帝の技を食らったわけでもなかろうに一瞬で石像と化してしまう。もちろん目はハートマークだ。間近でルフィの笑顔を見ることになってしまったマルコは、過去のそれなりに少なくはない女性遍歴から耐性があったため難を逃れたが、むしろ逆に初恋を抱えた少年のように胸がどきどきと高鳴ってしまった。よもやまさかこんなにも年下の子供に対して。というか、本来は一応同性である子供に対して。思い返して、ずーんと思わずマルコは沈む。
「ねぇ、これでいい?」
背中は相変わらず動かないエースに預けたまま、マルコが被せたシャツの下で器用にベストを脱いだのだろう。戦闘でぼろぼろだった服がただの布切れとなって、小さな音を立てて甲板に落ちた。それだけでごくりと唾を飲み込んでしまうのだから男とは厄介で単純な生き物である。マルコのシャツに腕を通し、ルフィは快活に笑った。
「ふふ、大きい! スカートみたいじゃない? 女の子っぽく見える?」
くるり、シャツの裾を持って一回転なんてしないでほしい。細身の身体が更に小柄になって、そこに成人男性であるマルコの大きめのシャツなんて着てみたものだから、すでに装いは完全な「彼氏のシャツを着た彼女」状態だ。ずり落ちている肩口なんかは愛らしいだけだし、腰周りは布が余って空気に揺れて、それなのに胸元はきついのかボタンは上からふたつまで開いたまま。下に半ズボンを履いているのが惜しいといえば惜しかったが、「不思議。すーすーするわ」と言ってルフィが片腕を上げてみればすぐさま相殺された。シャツの合間から、二の腕から脇に至る魅惑のラインを垣間見せるだけで十分すぎた。先程までは露になっていた箇所だというのに、こうして少し隠されるだけで色気を醸し出すのだからチラリズムとは恐ろしい。甲板のクルーたちはもはや壊滅に近かった。白ひげは声を上げて「情けねぇな、俺の馬鹿息子どもは!」と笑っていたが、マルコでさえ目の前の姿態に挫けてしまいそうだった。清純な顔を穢してしまいたい。それと同時にへし折るくらい強く抱き締めてしまいたい。相反する感情に微塵も気づかず、ルフィは明るく笑っている。何でこんなに可愛いんだよい、とマルコが本音をぶっちゃけかけたとき、麦藁帽子の向こうで何かが動いた。エースだ。彼の身体はいつの間にかこっちを向いていた。
「あ、エース? やっと気づいた」
麦藁帽子を押さえながら振り返り、ルフィは兄を見上げる。今更ながらにマルコはこの帽子の本来の持ち主であるシャンクスが、性別を変えてもなお目の前の存在の根底にいるのだと知って釈然としない気持ちになってしまった。そりゃあ元は同じルフィなのだから当然だが、それでも純真な心の大事な部分を丸ごと奪っていった男に愚痴のひとつも言いたくなる。おまえなんか過去の男だよい、なんて心中で悪態を吐いたマルコはかなり動揺していたし、先の戦闘で疲れ果ててもいたのだろう。そうでなくては彼の種々様々な心の葛藤が説明つかない。しかし少女と化したルフィに誰より動揺している人物は、紛れもなく他にいた。がばっと逞しく骨ばった大きな手で弟の、今は小さな白魚のような手を握ったかと思うと、エースは「偉大なる航路」中に轟くかの大声で叫んだのだ。
「ルフィ、兄ちゃんと結婚しよう! 俺が一生おまえを守ってやるからな!」
三十秒の沈黙の後、影で成り行きを見守っていたイワンコフをはじめとしたニューカマーランドの面々の、耐え切れなかった大爆笑が響き渡った。本質に差異のあるバギーやMr.3は顔を引き攣らせていたり、クロコダイルはそっぽを向いていたりなどしていたが、白ひげはにやにやと笑い続ける。海賊王の息子と革命家の娘、大物カップルの誕生ねぇ! イワンコフの高らかな声はまるで結婚式のベルのよう。真剣な兄に対して、にこっとルフィは微笑んだ。
こうして「偉大なる航路」には、新たな伝説の一ページが刻まれたのである。





弟でも守るけど妹ならもっと守んなきゃいけねぇだろっつーか誰にも傷付けさせたりなんかしねぇしむしろ触れようもんなら容赦なく消し炭にしてやる一生守ってやんなきゃなんねぇんだよそれが兄貴の役目だろうんうんそうだそうに決まってるつーわけでこいつを守るのは兄貴である俺の役目だだからルフィおまえは安心して兄ちゃんに守られてろ俺がおまえを幸せにしてやるからな!
2010年1月30日