放り出されたのは空中で、重力に従って落ちる感覚の中、バダップは条件反射で受け身を取った。地面を数回転がって立ち上がり、周囲を見回す。そうして彼は愕然とした。眼前に広がる光景が、彼の望んだ場所ではなかったのだ。一望できる街並み。太陽に照らされる黄昏。タイヤをぶら下げた大木。ベンチ。緑。夕焼け。それはバダップが人生をかけて覆したかった、あの絶望の瞬間ではなかった。
「何故・・・!」
やはりあのタイムワープマシンは完璧ではなかったのか。自分の生まれ育った街並みよりもどこかレトロな空気に、バダップの瞳から涙が溢れた。失敗してしまった。ああ、ああ! 失敗してしまった! 曾祖父が死んでしまう。自分を助けて、あの優しい曾祖父が、力強い曾祖父が、偉大なる曾祖父が。自分のせいで、自分なんかのせいで。死んでしまう。死んでしまう死んでしまう死んでしまう!
「あ、あぁ・・・っ・・・」
拳を握り、大地に蹲る。何が最強だ。何が優秀だ。曾祖父に生かされた分際で、曾祖父を助けられなかった分際で。無様だ。絶望に打ちひしがれ、バダップは慟哭した。もはや曾祖父を救う手だてはない。自分はこの何時とも知れない時代でひとり、情けなさに溺れながら死んでいけばいいのだ。ごめんなさい、お祖父様。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。小さな子供のようにバダップは泣き続けた。そうしてどれくらいの時間が経ったのか。
「なぁ、大丈夫か?」
夕日が沈もうとする瞬間、そっとバダップの肩に置かれた手。温かなそれに引き起こされるように顔を上げれば、夕日を背負った影がある。年恰好からするに自分と同じ年くらいだろうか。少年だろう影は心配そうにバダップを見やり、そうしてにかっと笑った。
「俺は円堂守! おまえは?」
太陽のような笑顔が、そこにはあった。





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2011年10月30日