「L」という存在は特別だ。ワイミーズハウスにいるすべての子供がLを目標にし、第二のLになるべく努力している。彼らにとってLは敬愛すべき存在であり、一種神格化されているところさえある。
けれど実際にワイミーズハウスの中で、Lと対面したことのある子供は少ない。片手に収まるくらいの、本当の意味での、第二のL候補。その子らだけがLを知り合えることが出来るのだ。だからこそLという存在は、子供たちの中でさらに目標とされていた。
Lに一目会いたい。それが彼らの目標だった。





Halloween Birthday





「L! Trick or treat!」
どんっという衝撃と共に腰に負荷がかかり、元来猫背なLはさらに背を丸くした。くるりと首を巡らせれば背中の真ん中に金色のさらさらとした髪が見える。にかっと悪戯っぽい笑顔で見上げてくるのは、ワイミーズハウスで次代L候補No.2と言われているメロだった。
どうやら駆けてきたらしい彼の数メートル後ろでは、白い部屋着に身を包んでいる次代L候補No.1―――ニアがいる。大きな目でくるりとLを見つめてくる所作はまるで小動物のようだ。
決して仲がいいとは言えない二人だけれども、Lがワイミーズハウスを訪れる際には必ず揃ってLの前へと現れた。それが牽制し合っての結果だということは、Lの考える範疇ではない。
「L! Trick or treat!」
子供の力で目一杯腰に掴まりながら、メロが繰り返してくる。
「L、お菓子をくれなきゃ悪戯します」
近づいてきたニアまで定番の台詞を口にし、Lはそこで初めて今日が何の日か気がついた。通りで今日はワタリの出すデザートがかぼちゃをふんだんに用いていたはずだ。もう一つ首を傾げたりしたのだけれど、あまりにも下から訴えてくる子供がいるので、Lはとりあえずその思考を頭の隅に置いた。
色あせたジーンズのポケットをがさごそと漁り、指に引っかかったものを取り出して渡す。
「はい、どうぞ」
「チョコだ!」
「クロスワードパズル・・・・・・」
「ありがとう、L!」
「ありがとうございます」
本来ならばLの持ち運びおやつであるチョコを受け取り、メロは歓声を上げる。同様に持ち運びおもちゃであるクロスワードパズルを受け取ったニアも、表情には出さないながらも嬉しそうに紙を握りしめた。
手持ちの札が減ってしまった、とLは後ろ髪を引かれながらそれらを見ていたけれども、応接室から出てきたロジャーは彼らに気づくとにこりと笑う。
「あぁ、今日はハロウィンでしたね」
「ええ、そのようです」
「ではLのお誕生日ですね。おめでとうございます」
「あぁ・・・・・・だからワタリは特大のケーキを朝食に出してくれたんですね。ありがとうございます、ロジャー」
頭の隅に追いやっていた謎が解け、Lは満足げにロジャーに礼を言った。その後ろで驚愕に目と口を見開いた子供二人の顔は、彼らに背を向けていたLには見えなかった。



定期的な報告とワタリからの伝言を伝え、Lのために用意されたホールケーキを平らげ、少しばかり他愛無いお喋りをした後、Lはワイミーズハウスを去るべく応接室を出る。本来、彼の来訪は誰にも知られること無く行われるはずなのだ。メロとニアがそれを知り得るのは、やはり彼らが第二のL候補だからに他ならない。
表口からではなく、裏の小さなドアから外へ出る。停まっている迎えのハイヤーに向かってぺたぺたと歩いていると、どんっという衝撃が再び腰を襲った。本日二度目のそれは、誰によるものかは検討がついている。先ほどよりも僅かに強い力に首を傾げながらLは振り向いた。突き出されたのは、10枚ほど束になった板チョコ。
「これやるっ!」
「・・・・・・いいんですか? チョコはメロの大好物でしょう」
「だからやるんだよっ! Lだってチョコ好きだろ!?」
「はい、大好きです。それでは遠慮なく頂戴します」
先ほどあげた直後に後悔したくらいなのだ。Lはすんなりとメロの手から板チョコの束を受け取った。まだくっついたままのメロを珍しくもニアが力ずくで退け、白い紙の束を差し出してくる。
「パズルです。私が作ったのでLには簡単すぎるかと思いますが」
「ニアが作ったのですか? ロジックに魔法陣、これを全部?」
「はい。Lはパズルがお好きでしょう?」
「はい、大好きです。それでは遠慮なく頂戴します」
やはり先ほど後悔しているので、Lはすんなりとニアの手から紙の束を受け取った。よしよし、と二人の頭を撫でてやり、ハイヤーへと向かって歩き出す。ドアを開けて乗ろうとした瞬間、高い声が響いた。
「L! お誕生日おめでとうございます!」
珍しいニアの大声に振り返ると、はんなりと頬を朱色に染めている姿が見える。その隣のメロは悔しそうに顔を歪めたけれど、すぐに同じように叫んだ。
「L! 誕生日おめでとうっ!」
「また来て下さいね! 次回までにちゃんとしたプレゼントを用意しておきますので!」
「僕だってもっと立派なプレゼントを用意しとくから! だからまた来てよ、L!」
顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ二人に、Lは思わず頬を緩めた。あまり変わることの無い表情だけれども、ワタリがいれば「満面の笑顔ですね」と言うだろう顔で、彼らに手を振る。
「ありがとうございます、ニア、メロ。次の訪問を楽しみにしていますね」
車に乗り込み、窓からひらひらと手を振りながら去って行くLを、メロとニアは並んで見送った。
それはまだ世界にキラが存在しない、比較的平和な日々のことだった。





大好きなんです、Lとワイミーズ。映画万歳。これがまさに理想→背中にマットが張り付いてしまえ・・・!
2006年10月31日(2006年11月17日mixiより再録)