【「堕神」を読むにあたって】

この話はD.Gray-manの第185夜「憎悪から生まるる」ならびに第186夜「幻」のネタバレを含みます。神田の正体やらについて盛大なるネタバレを含みますので、そういったものが苦手な方、コミックス発売を心待ちにされている方は、決してご覧にならないでください。
程よく捏造も入っておりますので、何でも大丈夫という方のみどうぞ・・・。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼












































堕神





アレンとリナリーと神田、そして第三エクソシストのトクサとゴウシ。計五人のエクソシストと共に、リンクは今回の任務地であるイスタンブールを目指していた。ゲートが出来て往復の手間は随分と短縮されるようになったが、それでもまだ世界中には行き渡らない。今回もアジア支部からイスタンブールに最も近い隣国のギリシャまで飛び、その後は常と変わらずに列車で移動だ。黒の教団の権威でコンパートメントの特等室を取ったが、部屋はふたつ、席は四つずつ、人数は六人。三・三で分かれるのがベストだろうが、第三エクソシストとは相容れないのか、アレンとリナリーはどこか戸惑ったような表情を浮かべている。リンクの仕事はアレン・ウォーカーの監視のため、彼から離れる気もない。果てさてどうするか、とリンクが些事に頭を動かしたときだった。
「神田さん、私たちとご一緒しませんか」
取った部屋のうち、すでに片側の扉の前にトクサとゴウシが立っている。小柄なトクサは細い目を笑みに変えて、穏やかな声音で神田を呼んだ。アレンが眉を顰め、リナリーが目を瞬く。呼びかけられた当の本人である神田は、切り揃えられた黒髪で軌跡を描き、振り返る。
「あぁ?」
「四人も一部屋に納まっては狭苦しいし、不愉快なこともおありでしょう。私たちとご一緒しませんか、神田さん」
そこでリンクは、トクサの放つ違和感に気がついた。エクソシスト、彼らからしてみれば純粋種に当たる第一エクソシストを、トクサは「使徒様」と呼ぶ。それは区別であり蔑称であり、そして皮肉でもあるのだろうが、今彼は神田のことを「神田さん」と名前で呼んだ。個別認識をするに足る理由があり、それは何かと言われれば少なからず予想はつく。
リンクは第二エクソシストについてさしたる情報を持っていない。九年も前に行われ、チャン家が全霊を持って廃棄、隠匿した計画。それに神田ユウが関わっていた事実くらいしか、リンクは知らない。
「ちょっと待ってください。どうして神田があなたたちと座らなくちゃならないんです」
一歩前に出たのは、神田ではなくアレンだ。常日頃いがみ合い、顔を合わせれば口だけでなく拳の応酬も繰り返しているというのに、こういうときアレンは必ず神田の側につく。第三エクソシストに心を許せないだけかもしれないが、それでもアレンの中で神田の存在が決して軽くないことをリンクは知っている。
「純粋な提案ですよ、使徒様。部屋はふたつ、人は六人。三人ずつ分かれるのが最も効率良いでしょう?」
「だったら僕があなたたちと一緒になりますよ」
「駄目ですよ。あなたは今、リンク監査官と一心同体の身ですから。四人になってしまうじゃありませんか」
気色の悪い言い回しに、事実ではあるがアレンとリンクの顔が歪む。くつくつとトクサは笑い、それに、といやらしい口調で続けた。
「興味があるのですよ。是非とも神田さんとお話をしてみたいのです。第三エクソシストとして、先輩に、いろいろと聞いてみたいこともありますし。それに神田さんも、私たちに聞きたいことがおありなのではありませんか?」
「―――ちっ!」
「神田!?」
舌打ちをひとつして、神田がアレンを大股の一歩で追い越す。リナリーが引き止めるように指を伸ばしたが、団服の裾を掠めるだけに終わってしまった。トクサが恭しくドアを開け、神田がその中に消えていく。ゴウシの大柄な身体がその後を追った。唇の端を吊り上げたトクサは、さも得意げな表情だった。
「それでは使徒様、またイスタンブールにて」
ぱたん、と軽やかに閉められたドアのこちらでアレンとリナリーが立ち尽くしている。冷静な思考でその様を観察しながら、リンクは誘いに応じた神田の横顔を思い出す。硬質で、気高く、美醜に興味のないリンクでさえも素直に美しいと認める容貌だ。あれが造られたものだとするのなら、創造主はさぞかし熱い息を吹きかけたに違いない。芽吹いた命はそれこそ神のものではないのだから。
「さぁ、我々もさっさと座りましょう」
エクソシストの背を押して、リンクも特等室に足を踏み入れる。隣の部屋からは生き物の気配は、ひとつも感じることが出来なかった。





私の仕事じゃない。だから余計な手出しはしない。
2009年5月5日