We love You!





過激な華 / 神田ユウ
ん! / ラビ→神田
Darling, Dariling / ティエドール部隊
ゆずらないもの / アレンとフォーで神田
虚ろな瞳は恋をする / ノアで神田













過激な華



神田ユウという人物は、齢八歳で黒の教団に入り、エクソシストとなった。
エキゾチックな顔立ちは現在他国と国交を持たない日本のもので、彼の整いすぎている容姿も手伝い自然と人目を集めてしまう。けれど性別すら超えさせる美貌は、彼の武器ではなかった。むしろ外見からは想像できない粗雑な言葉を使う彼にとっては、逆効果になっていたかもしれない。ただでさえ近寄りがたい雰囲気が、何倍にも誇張されてしまっていた。
そして彼は強烈な性格をしていた。硬質な美しさに相応しい、それらを引き立てるような強さと非情さを彼は持っていたのだ。目的のためなら犠牲をいとわない。悲しいまでに明確な優先順位に、人々は彼を心ない者だと罵った。そして神田はそれを享受していた。正確に言えば一切を切り捨てていたのだ。誰にどう思われようと構わない。彼にとって優先順位は、常にはっきりしていたのだから。
特別なものを作らずに、ただ目的だけを追い求めて、日夜彼は闇を斬り裂く。己の身すら顧みない戦い方は、彼を緋色に染めていった。独り立つその姿は美しい。
過激な華、だった。



当サイトの神田設定。














ん!



ラビは神田のことが好きだった。特に彼の美人という言葉だけでは表せられない容姿をことの他好んでいた。顔だけではなく、手足にさえ傷でもつけたら、相手をイノセンスでぶっ潰しても気が済まない。それくらいラビにとってはストライクだったのだ。神田ユウの容姿は。
「ユーウー?」
隻眼を瞬かせて覗き込めば、黒水晶のような瞳が今は見えない。窓枠に頭をもたれさせて眠っている様子は、どこか幼さを感じさせる。いつもの刺々した空気もな形を潜めており、ラビはへにゃんとだらしなく笑ってしまった。
「ユウ、可愛いさー」
ラビは神田の容姿が大好きだ。これで女の子じゃないなんて詐欺だと初対面で喚いた過去があるくらい、彼は神田の美貌が大好きだった。
だけど今は神田ユウという人間の中身も愛している。すべて切り捨てている潔さは自分が決して持ちえないものだし、対AKUMAの戦闘力は感嘆に値する代物。八歳からエクソシストとして働いてきたせいで学はあまりないけれど、そんなところがまた可愛くて良い。そう感じる自分は相当な末期だとラビ自身自覚しているけれど、神田を前にすればそれでもいいやなんて思えてしまうから、やはり愛とは偉大である。
汽車の揺れに合わせて、神田の頭も小さく揺れる。愛しげに眺めながら征く、戦いへの道。だけどこんな神田が見れるなら、ラビにとって長い道中も決して退屈なものではないのだ。



ラビューラビュー。














Darling, Darling



ディシャの「隣人の鐘」がAKUMAを蹴散らし、漏れた輩は神田が右から、マリが左から挟みうちにする。100と少しいたAKUMAは二時間もあればすべて片付いた。
「レベル1の雑魚ばっかじゃん」
「うむ、数だけだったな」
「結局イノセンスは外れだし、俺ら無駄足だったじゃん」
「そう言うな、デイシャ。・・・・・・神田、平気か?」
マリが振り向いて問うと、己のイノセンスを小さくしていたデイシャも同じように振り返る。長い黒髪を持つ彼らの弟弟子は、AKUMAに突き刺していた刀をぐちゃりと抜いて、いまいましげに振り払っている。不機嫌な横顔はいつも通り。怪我のない弟弟子にマリとデイシャは心中でほっとした。怪我などいくらでも治せる体であることは知っているが、それでも傷などつけないに越したことはない。
「次はどこだ」
教団支給の黒いトランクを拾い上げ、神田が無感情に口を開く。
「オーストリアだな。夜行列車になるだろう」
「こんな大量破壊の任務なんて、ラビにでも任せとけばいいじゃん? 何で俺らに回すんかな」
「人手不足は深刻だ。空いている者で補っているんだろう」
「俺はおまえらとの方が楽でいい。うるさくねぇしやりやすい」
会話にぽんっと落とされた言葉に、マリとデイシャは一瞬遅れてしまった。当の神田はといえば、さっさと駅に向かって歩き出している。颯爽とした後ろ姿を眺め、二人は顔を見合わせた。あぁ、なんて可愛いことを言ってくれるんだ、この弟分は!
「待てって、神田! 一緒に行くじゃん!」
「途中で夜食を買っていこう。ここらに確かアジア食を扱う店があったはずだ」
小走りで駆けよる。一部では嫌煙されている少年も、二人にとっては可愛い弟弟子なのだった。



仲良しこよしティエ部隊。














ゆずらないもの



「え? 神田ってアジア支部出身なんですか?」
アレンの驚きの声に、彼の修業相手―――といえば聞こえはいいが、実力差から一方的な攻撃手になっているフォーは、少女の顔でかぶりを振った。
「あぁ。あいつ日本出身だからな。八歳から二年間、ここでアタシ相手に修業積んでったぜ」
「神田もこの修業を・・・・・・しかも八歳で・・・・・・」
フォーとの格闘を思い描き、アレンはぞっと顔色を変えた。あぁ神田、今まですみませんでした。今度会ったらゆっくり語り合いましょう。蒼白な顔でアレンは一人頷く。
「イノセンスは解放できたけど、所詮習い事剣術だったしな。アタシの稽古の合間に、時々来るティエドールに連れられて実戦も経験してたぜ」
「ふぅん・・・・・・神田って、その頃からあんな性格だったんですか?」
「あんな?」
「えーっと・・・・・・任務に忠実で、なかなかにクールと言うか」
アレンとしてはとてもとてもオブラートに包んだつもりだったが、フォーは軽く鼻で笑い飛ばした。容姿は同年代にしか見えないのに、こういうときに彼女は守り神の化身なのだと感じさせる。年齢が分からない。なおかつ上手っぽい。
「ここに来たときはすでにあんな性格だったぜ」
「うわー・・・・・・とんでもない八歳・・・」
「仕方ねぇだろ。生き方なんて人それぞれだ」
フォーが腰かけていた窓枠から立ち上がる。ひらりとした袖口がまるで実物の布のようで、アレンは知らず目で追った。そういえば彼の髪も、綺麗な跡を描いて視界を舞った。
「あいつは望みが強すぎたから、目的を一つに絞った。そう出来たことはあいつの強さで、同時に弱さでもある」
「それはつまり、神田が目的のためにたくさんのものを捨てたってことですか?」
「さぁな。おまえにそう見えたってことはそうなんじゃねぇの?」
フォーは曖昧に答えをぼやかしたけれど、アレンは過去に一度だけ任務を共にしたマテールを思い出した。あのとき神田は、致命的な怪我を負いつつも命を失うことはなかった。彼の体にまつわる因縁をアレンは知らない。だけど傷ついた体で叫んだ神田は、今もこの左目に焼きついている。
自分が無意識に浮かべだ微笑の優しさを、アレンは知らない。
「あぁ・・・・・・だから神田は美しいんですね」
「・・・・・・ウォーカーって本当に英国人だよな」
まるで慈しむかのように呟いたアレンに、フォーは呆れたように肩をすくめた。



当サイト神田設定2。














虚ろな瞳は恋をする



適当な一枚を引き抜き、代わりにジョーカーを二枚にして行うババ抜き。通称「ジジ抜き」をしながら、ロードが楽しそうな声を上げた。
「アレンはボクのおもちゃだから、邪魔すんなよォ?」
捨てられたハートとダイヤ。杖を持った女王が横を向いて笑っている。
「何、ご指名ありなの? じゃあ俺は眼帯君とダンナにしようかな。汽車で会った縁もあるし」
重ならないカードに溜息し、ティキは隣へとカードを示す。大柄な体を丸くさせ、スキンは慎重に一枚を選び引き抜いた。途端に笑みを浮かべながら、彼はスペードとクローバーを嬉々として捨てる。
「ならば己はメガネ元帥だ。あの逃げ足の速さは敵ながら見事なり」
「ジャスデロはクロスだもんね! あのうざい元帥ぶっ殺してやるよ!」
一枚引かれたことで、スキンの手からカードが消えた。トップ勝ち抜けの彼は笑顔で、その隣のティキが今のところ最多カード数を誇っている。
双子のジャスデロから示されたトランプを、デビットは考えることなく端から引き抜く。真っ黒だった持ち札にハートのエースが加わった。
「はぁ!? んじゃ俺はどうすんだよ! 他のエクソシストなんか知らねぇぞ!」
「リナリーはァ? お人形みたいで可愛いよォ?」
「俺の好みは美人系だ! んな女に興味ねぇよ!」
「つってもエクソシストなんてほとんどがオッサンだしなぁ。ここはおとなしくジジ専になっとけって」
「うっせぇティキ!」
デビットのカードからロードは一枚引き抜く。ハートのエースは未だ彼の手に残され、血のような赤が異彩を放つ。
「うむ・・・・・・確かメガネ元帥の護衛にいたな、見目良いのが」
スキンの言葉に、他四人の目が彼を振り向く。ティキが引いたカードは今回もまた外れで、そんな彼をジャスデロが下品に笑った。近くにあったペーパーナプキンにペンを走らせ、器用にスキンは記憶を描き出していく。完成した絵に満足そうに頷くと、彼はそれをジャックを捨てたデビットに向かって突き出した。隈のある目を大きく見開いた彼に、とりあえず手持ちの情報を与える。
「メガネ元帥の護衛で、名をカンダと呼ばれていた」
「・・・・・・カンダ?」
「そうだ」
「・・・・・・マジ?」
ひらりとスキンが紙を揺らすと、デビットはそれを逃さず食らいついた。妙に顔を寄せて凝視している彼にロードが笑う。
「デビット、まさか惚れたのォ?」
「わーぉ、初恋か?」
「ぎゃはははは! マジかよ!」
からかいにも反応しないデビットを無視して続けられるカードゲームは、ティキが最後の一枚を放られている束から引き抜くことで終了した。最下位はデビット。ジョーカーを務めたのはハートのエース。
「カンダ・・・・・・」
デビットの溜息に似た囁きに、赤いハートが笑うように揺れた。



デビット→神田。マイナーすぎていっそ笑える。
2006年7月9日