、久しぶりやな! 会いたかったで!」
そう叫んで、公園をダッシュで突っ切ってくる佐野君。そのほっぺに貼られている白いガーゼ。唇横には絆創膏。
よく見れば浴衣の袖口の下、手首にも包帯を巻いてるみたいだし。

最近の彼は、会う度に怪我ばっかりしている。





ゆーとぴあへいらっしゃい!





「ひさしぶり、佐野君」
「久しぶりやな、! 元気やったか? 浮気はしてへんよな!?」
「たぶんしてないよ」
「俺もしてへん! 相変わらず一筋や!」
「うん、ありがとう」
にこにこ笑いながら佐野君は恥ずかしいことを言ってる。あぁ、周りに人が少なくてよかった。
お金がない私たちは学生デートということで、今日は公園のブランコに乗っておしゃべり。
もう六時近くだから子供はいないし、ママさんたちもいない。いるのは恋人たちが二・三組。
制服ってことは、やっぱり学生かな。みんなお金ないのかも。
「佐野君はさ」
「ん?」
「いっつもどこか怪我してるよね。何で?」
佐野君の性格からイジメってわけじゃなさそうだし、家族の話はよく聞くからそっちも違うみたいだし。
じゃあ何で、と思って聞いたら、佐野君は目をパチパチと瞬いた。
ちょっと子供っぽい。可愛い。
「あー・・・・・・」
「あー?」
「いや、何ちゅうか、その、な?」
「な?」
佐野君が首を傾げたから、同じようにやってみる。右にこてん。左にころん。その間も視線はずっと放さない。
そうしてると佐野君は変なところで正直だから、だんだん顔色が悪くなってくる。
汗がだらだら出てきて、せわしなく目がきょろきょろして、すごく怪しい。挙動不審。
でもそんな佐野君は可愛い。面白くて見てると楽しい。
「えーっと・・・・・・」
「あのね佐野君、嘘を考えるくらいなら正直に言ってくれた方が嬉しいんだけど」
「・・・・・・・・・」
「それか、言いたくない理由をちゃんと言って? でないと私、心配するよ。ずっとずっと心配してるよ」
夜も眠れなくなっちゃって、そのうちご飯も食べれなくなっちゃって、混浴風呂に一緒に入るのも考え直したりしちゃうよ。それでもいい?
そう言ったら、佐野君の顔色が変わった。ちょっと怒った? ううん、焦った?
「それはあかん! 、夜はちゃんと寝なあかんで!? メシもよう食うて、マイ温泉が出来たら絶対一緒に入るんや!」
「じゃあ理由教えて?」
「それもあかん!」
佐野君は、ハイテンションの方が操縦しやすいかも。
初めて会ってからもうすぐ一ヶ月になるけど、ちょっと分かってきたかもしれない。
「・・・・・・・・・」
「あ、や、ちゃうねん。話せないんやなくて・・・・・・話して、を巻き込んでしまうんが、俺はめっちゃ怖い」
「・・・・・・そんなに危険なことしてるの?」
「・・・・・・・・・」
「温泉のため?」
「それもある。せやけど、他にも理由があるんや」
はっきりとそう言った佐野君は、可愛いじゃなくて、かっこよかった。
ほっぺのガーゼは痛そうだけど、眼差しはすごく真剣。何だか聞いた私の方が悪い気してくる。
怪我している佐野君を見るのはヤだし、心配だって実はすごくしてるし、本当は気になって仕方ないんだけど。でも。
「・・・・・・必ず帰ってくるって、約束してくれる?」
何だかドラマに出てくる縋る女みたい。でも、ちょっと必死だ、私。
だって何だか佐野君、だんだんと怪我が多くなってきてるみたいだし。まさかとは思うけど、いなくなっちゃったりしたら、ヤだし。
あー・・・・・・困った。私、はまっちゃってる。
やばいところまで、もしかして来ちゃった?
「約束する。俺は絶対に帰ってくる。・・・・・・のとこにや」
強引に私の手をつかんで、指きりげんまんをする佐野君は、子供みたいだけど大人みたいな顔をしてた。
やだな。困る。まいったな。

私、佐野君のこと好きみたいだ。





2005年12月10日