目の前には泣いている女が一人。
化粧してなくてよかったね。してたら目も当てられなくなってたよ。
それこそお化けみたいな? うわ、最悪。



「でねぇー・・・・・・聞いてる? つばさぁぁぁぁああああああ・・・・・・・・・っ!」
「・・・・・・・・・・・聞いてるよ」



さっきから延々と3時間にわたってね。





青く広いこの空、誰のものでもないわ





人間の70%以上は水分で出来てるって言うけど、さすがにここまで泣き続ければいい加減体が干からびても仕方ないんじゃないの?
それにしちゃそんな気配は全然ないよね。
ってことは何? の体は70%どころか100%近くが水で出来てたりするわけ?
あぁなるほど、だからそんなにくにゃくにゃしてるわけだ。



「でねぇ・・・・・・『やっぱり僕には野球しかないから』って・・・・・・っ! そんなのっそんなの判ってたもん――――――っ!!」
「ウン」
「御門が野球LOVEなのは知ってたもん! そこがカッコよくて好きになったのにっ! 白球を追ってる姿が素敵だったのに!!」
「ウン」
「誰よりも野球が好きで『グラウンドが恋人』って宣言してて、それが実は辛くって悲しかったりもしたけど、でもそれでも好きだったから我慢してたのに――――――っ!!」
「ウン」
「それなのに『今は甲子園のことを第一に考えたいから』ってぇ! アンタが甲子園以外のことを考えてるときがあったかって言うの! デートでも話すことっていったら野球と野球部のことばっかり!!」
「ウン」
「それ全部に耐えてきたのは御門が好きだったからなのに! 好きだから、大好きだから〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・っ!!」



あ、また泣き出したし。
もうバスタオルを何枚使ったことだか。本当によく泣けるもんだよね。呆れるを通り越して感心するよ。
あぁなるほど。ジュースを飲みながら泣いてるから、いくら経っても干からびないわけだ。
このジュース出したのって誰? ・・・・・・・・・つーか俺だし。
自業自得ってこういうことを言うんだろうね。



「前のときもそうだったんだよぉ! 国光だって『青学を全国へ導くことしか考えられない』って! それだって知ってたっつーの!!」
「ヘェ」
「知ってたけどっコートを走り回る国光の姿が好きだったのに! クールだけど熱いプレーが大好きだったのに!!」
「ヘェ」
「表情がまったく変わんなくて実はロボットなんじゃないかって疑ってたけど、でもそれも意外と楽しそうだから黙ってたのに! もっと観察してたかったのに――――っ!!」
「ヘェ」
「それなのに『今はテニスのことしか考えられない』ってぇ! アンタがテニス以外のことを考えてるときがあったの!? 生徒会のことか!? それとも左肘のこと!? 何にも喋ってくれないんだから理解することだって出来るわけないじゃないっ!!」
「ヘェ」
「それに全部耐えてきたのは国光が好きだったからなのに! 好きだから、大好きだから〜〜〜〜〜〜・・・・・・っ!!」



・・・・・・まだ泣くし。
このバスタオルもそろそろ終わりかな。たしかお歳暮でもらったのがまだあったから大丈夫だろうと思うけど。
それにしてもいい加減に瞼が真っ赤に腫れ上がってるんだけど。あぁもう頬も真っ赤だし。
、こんな顔で外を歩いた日には注目されまくってどうしようもなくなるよ。
それこそ失恋したくらいの痛手じゃ済まないかもね。あぁでも余計な奴らとかに声かけられるかも。
まったくどうしようもないヤツだよ、おまえは。



「その前の彰も、その前の前のアキラも、その前の前の前の佐助も、その前の前の前の前のシリウスも、その前の前の前の前の前のイルミも、その前の前の前の前の前の前のハヤテも、その前の前の前の前の前の前の前のアラゴルンも――――――っ!!」
「ソウ」
「みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんないっつも最後は言うことが一緒! 『今は○○のことしか考えられない』って!! 何っ!? 男ってみんな同じことしか言えないわけ!?」
「ソウ」
「何よ! 染色体にそうインプットでもされてるっていうの!? それってもう最悪! 地球上の男はみんな同じことしか出来ないってことじゃない!! じゃあ何のために人類は60億にも量産されたわけよっ!」
「ソウ」
「意味ない――――――っ!! この世界に意味なしっ! つーまーんーなーい――――――――――っ!!!」
「ソウ」
「あぁもうっ! 今度こそは・・・っ御門こそは大丈夫だと思ったのに!! 一生ずっと付き合っていけると思ったのにっ・・・・・・!!」



ボロボロと大粒の涙を流してまたまた泣き始める
なんかどこの国の人? って感じの名前が並んでたし。まぁ知ってるけどね。写真とか思いっきり見せられてるしね。
つーか、おまえ相手を顔で選んでるって言われても否定できないと思うよ。
それに地球上の男がみんな一緒なわけないじゃん。
おまえの敗因、ものすごく明確だと思うけどね。だって気づいてないわけじゃないだろ?
それでも、同じような奴しか好きになれないわけだ。



何かに打ち込んでる奴っていうのは、たしかにそれなりにカッコよく見えるわけだしね。



「・・・もぉやだー・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「恋なんてしない。もう絶対に恋なんてしないぃー・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「いっつもフラれて、ばっか、だし、みんな最後には、わたしのこと選んで、くれないし」
「・・・・・・」
「・・・・・・なんかもぅ・・・・・・・泣いて、ばっかり・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・でも、ねぇ・・・・・・・・・・・・・?」



目と瞼と頬を真っ赤に染めてが笑う。
泣いてばっかりでグシャグシャの顔で、でもすごく綺麗に。





「・・・・・・みんな、本気で好きだったんだよぉ・・・・・・・っ」





フローリングの床でスヤスヤと眠りこけているの頭を上げてクッションを突っ込んだ。
ベッドからタオルケットを取り出してかけてやる。
あーあぁ、本当に瞼が無残なくらい腫れてるし。後で冷やしたタオルでも持ってくるか。
それにしても散々泣いて喚いて疲れ果てて寝るだなんて、まったく一体いくつなんだか。ガキすぎるんじゃないの?
本当に俺と同じ年? 信じられないね、お子様すぎる。



「・・・・・・・・・・鈍い女」



気がつけば俺の手はの髪を撫でていて。
それに気づいてやけにムカついたからちょっと引っ張っておく。
水分100%で出来てる頬はムニムニしてて柔らかかった。
引っ張って、撫でて、その腫れた瞼に冷えたタオルを押し付けてやって。
もう一度、髪を撫でる。



この鈍い女は、失恋するたびになんでこの俺がわざわざ何時間も付き合ってやってるのかなんて、考えたこともないんだろうな。



一つのことにしか打ち込めなくてを愛する余裕もない男なんか止めとけよ。
目の前にこんないい男がいるのに、全然気づく様子もないし。
いい加減に俺も我慢の限界なんだけど?
それとも何? みたいな鈍い女にも判るように言ってやらなきゃダメなわけ?
あぁでもそれぐらいしないとダメかもね。なんたってなわけだし。
待つのにも見つめるのにも振られるのを慰めるのにもいい加減に飽きたところ。
そろそろ、いいよね?
髪を撫でながら一人で勝手に頷いた。



「バーカ」



失恋で泣くのなんて、これが最後にさせてやるよ。





2003年6月27日