ある日の氷帝男子テニス部練習中にて。
「そこの背の高いマッシュルーム! 右手の振り抜きが甘いわよ!」
「!?」
「そこのセミロングはボールへの反応が遅い! 千本ノック受けて鍛えなさい!」
「・・・・・・・・・(誰だよ、あの女)」
「私の命令が聞けないっていうの?」



アーン?



「いえっ!そんなことございません!!」(なんか逆らえない!)
「だったらさっさと練習しなさい! そこっ! 体力ないわよ、全員グラウンド20周!」
「ハイッ!」(逆 ら え な い !)



ある日の氷帝男子テニス部。
彼らは突如現れた美女によって制圧されていた。





終わりのない道を走れ!




「あれ? なんか今日はみんな真面目じゃん?」
「ホンマやな。監督がおらへんのにようやるわ」
「さっさと練習始めようぜ、長太郎」
「はいっ! 宍戸さん」



ガチャッ
びゅーん
ドゴオォッ



――――――――――――――――どごぉ?



「誰がテニスコートに入っていいって言った? 練習中に邪魔なのよ! 部外者は立ち去りなさい!」



「・・・え? え!? っておい! 宍戸! 宍戸大丈夫か!?」
「宍戸さんっ! あぁ、こんな無残な顔に・・・・・・っ!」
「この顔は前からや。何も変わってへんから心配すんな」
「おしたりぃ・・・・・てめぇ・・・・・・・・・っ」
「あぁ喋らないで下さい宍戸さんっ! ますます変な顔に!!」
(ヒデェ・・・・・・)



「というわけで練習の邪魔なので出て行って頂けますか?」
「何言うとんねん、日吉。俺らかてテニス部やん。練習しに来て何が悪いん?」
「遅れてくるのが悪いんだよ? ホラ、さっさと出てく」
「・・・・・・・・・滝まで何言うとんのや」
「だってねぇ?」



チラッと示された視線の先。
コート中央のベンチから見下される視線。



ストレートロングの
隙のないメイクで彩られた顔。
秋桜色のスリット入りのスカートスーツ。
ストッキングに包まれた細く締まりのよい
高く鋭いハイヒール



青少年の永遠のあこがれお姉様(それも、女王様タイプの美女!



「遅刻した罰よ。コートに入る前にグラウンド30周!
はい!(なんか逆らえない!)



「なぁなぁあれ誰なん? めっちゃ美人やん!誰の知り合いや」(組んでる足がめちゃくちゃ色っぽいんやけど!)
「知りませんよ。気づいたらいたんですから」(変態みたいな発言するんじゃねぇよ!)
「そこ!話してる間があるならシャトルラン10往復!」
はい!(逆らえない!)
「すっげーキレー! 足長い! 髪サラサラ! 大人っぽい! プライド高そうなところがカッコイイ!」(きつそうな目とかも素敵!)
「理想の大人の女性って感じだねぇ。お姉様って呼びたいかも」(というかハイヒールが似合いすぎてるし)
「そこも! 話してる間があるなら素振り100回!」
はい!(喜んで!)
「宍戸さん・・・っ! サーブが決まらないですーっ!」(あの人の視線が気になって〜〜〜!)
「何でおまえはそんなにノーコンなんだよ!」(俺だって気になってんだよっ!)
「脇を締める! 手首の使い方が甘い!」
はい!(・・・何で俺まで!? でも逆らえない!!)



「氷帝テニス部――――――っ!」
「ファイッ!!!」



「美人の姐さんの下でテニスやるってえぇなぁ」
「監督よりもやる気が出るよな」
「アドバイスも的確ですし、間違いなくテニス経験者でしょうね」
「あの人がスコート履いてコートに立つのかぁ。強いだろうねぇ」
「ス、スコート・・・・・・・・・っ」
「おい長太郎っ!鼻血噴くんじゃねえよっ!」
「私語が多いっ! 10周追加!」
「はいっ!」(喜んで従います!)



「・・・・・・・・・何だこの異様な張り切り様は」
「ウス」
「そこ! 遅刻したならグラウンド50周してからコートに入りなさい!」
「アーン?」
「ウス」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



!!!!????



「なんでがここにいんだよ!!!!!?????」
「お姉様とお呼び! バカ景吾が!!」
「なんでお姉様がここにいんだよ!!!!!?????」
「通りかかったから」



妙に納得させる台詞ですね。(テニス部一同。跡部含む)



「いつも弟が迷惑かけてるわね」
「何で『お世話になってます』じゃないんだよ!?」
「アーン? アンタの世話をしてくれてえるのは樺地君でしょ」
「なんだ跡部のお姉様だったのかー。俺てっきり」
てっきり!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・跡部の恋人かと一瞬思いました。すみませんでした」
「よし向日! あとで飯でも奢ってやる!」
「おかっぱ! あんたグラウンド100周!!」
「えぇ!?」(どっちに驚くべき!?)



「つーか
「景吾」
お姉様。何しに来たんだよ、こんなとこまで」
「(自分の学校を『こんなとこ』言うとるで、跡部の奴)」
「別に。ちょっと通りかかったのと景吾に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「アンタ、上と下どっちがいい?」



!?



「な、なぁ『上と下』って何だよ!?」
「わ、わわわわ判るわけないじゃないですかっ! 向日先輩!」
「アホやな。『上と下』言うたら決まっとるやろ。あのときの―――――・・・」
「下ネタは止めて下さいね、忍足先輩」
「それ以外だったら何だろうねぇ。お姉様が聞くようなことって・・・・・・」
「俺は知らない! 知らないって言ったら知らないからなっ!」
「ウス」



「何でそんなこと聞くんだよ?」
「まぁいいから。気軽に答えなさい」
「じゃあ上」
「――――――――――そう」



「なら榊太郎(43歳)ね」



!!!???



「いやちょっと見合いすることになってねぇ。どっちにしようか迷ってたのよ」
「何だよ見合いって!? つーかなんで太郎なんだよっ!!?」(あわあわ)
「アンタが選んだんじゃない。
「待って下さい、お姉様! 監督だけは本当に辞めたほうが良いと思います!」
「そうだよっ! だってあんなホストみたいな外見なのに音楽教師なんだぜっ!?」
「それに『イッてよし!』って言うのが口癖なんやで!? 辞めや、そないな奴!!」
「お、俺も辞めたほうがいいと思います!」(何か今、漢字が違ったような・・・・・・?)
「第一って何だよ!?」
「年齢の話。一番上の人が榊太郎さんだったから。」
「太郎は今年で44だぞ!? とは―――――・・・・・・っ」
「景吾」
お姉様とは22も違うじゃねぇかっ! そんな奴と見合いすんな!!」
「じゃあにする?」



「ちなみに下は不二周助(14歳)なんだけど」



だからなんで!!!



「待ってや、姐さん! 何で不二なん!?」
「仕方ないじゃない。取引先の息子(長男)だし」
「でも、でもでも7つも下じゃん! それでいいのっ!?」
「長い人生を送るなら平凡よりもアブノーマルな方が楽しいわよ」
「だからって監督や不二さんはないと思いますっ!」
「人生は冒険よ、ゴールデン君」
「お姉様もまだ22歳なら結婚は早いんじゃねぇか・・・・・・?」
「でも今年で大学も卒業なのよ。就職か結婚かしかないじゃない」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「それとも何? 私に会社入ってセクハラされろとでも言うわけ?」
「滅相もございません」



恐れ多すぎるでございます、女王様。



「うーん、まぁでも今日は帰るわ。榊さんもいないみたいだし」
「結局太郎に会いに来たのかよ」
「まさか。景吾に会いに来たのよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「可愛い可愛い。でも実の姉に欲情するのは止めなさいね」
「!!!!!」



「樺地君。またお店の方にも遊びに来てね。サービスしちゃうから」
「ウス」
「あ、あああああああああああああ跡部! 跡部のお姉様って! お姉様って!!?」
「バカッ! ふざけんな! 喫茶店でバイトしてるだけだっ!!」
「何や、そっか」(是非とも行こうと思ったのに)
「みんなも来てね。ケーキタイムは混むからそこで来たら殺すけど」
「喜んで行かせていただきます!」
「じゃー私帰るわ。真面目に練習しなさいよ」
「なら車・・・・・・」
「いいわ。校門でオトコ(車)待たせてるし」
「!!!!!!!!!!」
「な、なななんあななんあななんあなななんあなんな!!!!!」
「ちゃんと人間の言葉を話しなさい、景吾」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜男の車に気安く乗るなっていつも言ってんだろーがっ!!」
「私がそんじょそこらの男にヤラれると思って?」



思いません。



「それじゃまたね」
「夕飯までには帰れよ」
「当然でしょ」



お姉様、優雅に立ち去られました。



「なー侑士」
「何や、岳人」
「跡部の女の好みってさー『年上で綺麗で気が強くてそれでいて可愛い人』だったよなー」
ベッタベタやで、アイツ」





「いたッいたたたたただただたたたたたたたたっ!!!」
「寝てる暇があったら部活に出なさい、クルクル」
「ま、まままままま待ってお姉様っ! ハイヒールは反則! パンツ見えちゃうよっ!!」
「いいのよ。今日は勝負下着だから」
「えっ!?」(黒レース万歳!!)
「でも誰が見ていいって言った? アーン?」(グリグリ)
「あたたたったたたったっ! だからハイヒールで踏むのは反則だってば!!」(気持ちいいけど!)



とりあえず、今日も氷帝テニス部は平和なのかもしれない。





2003年5月17日