【「刹那の救済者」を読むにあたって】

この話は、OP第569話「怪物」のネタバレを含みます。加えて、白ひげ海賊団一番隊隊長マルコ氏の能力に関するネタバレを含みつつ、彼が流血沙汰です。
ネタバレが嫌な方は決してご覧にならないで下さい。何でも大丈夫という方のみお付き合いいただければ幸いです。
本来はシリーズ夢として作成予定のヒロインのため、彼女の簡単な設定は以下です。

● 元「スペード海賊団」のクルー。現在は「赤髪海賊団」の戦闘員。
● エースが処刑されると知り、白ひげ海賊団の強襲に混ぜてもらった。
● シャンクスは行かせたくなかったらしい。
● エース以外のことを、「船長」と呼べない。

閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでも駄目だと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼


































刹那の救済者





ぐらりと揺れた白ひげの身体に、思わず気をやってしまったのがいけなかった。黄猿のレーザーはその一瞬を見逃さずに、己の身体を貫く。動物系だが幻獣種のため死にはせず、再生だってするけれども、それでも痛みがないわけではない。ふらついた隙を、やはり黄猿は逃しはしなかった。いつの間に忍び寄っていたのか、海兵が背後からマルコの手首に鎖を繋ぐ。がしゃん、と重苦しい音を鳴らしたそれは、マルコが最も避けたかった海楼石だ。理解した瞬間、脳だけでなく身体までが制御から外れる。悪魔の実の能力は抑えられ、もはや普通の人間のようにすら動けない。やられる。黄猿のレーザーは、容赦なくマルコを射抜いた。
「うぁ・・・! ぐ・・・っ!」
久しく感じなかった激痛がマルコを襲う。肩には穴が開き、次々と零れるのは不死鳥の炎ではなく真っ赤な血だ。海楼石を嵌めてしまえば、もう終わりだと思ったのだろう。黄猿は唇を笑みに歪ませたまま一歩引き、代わりに武器を手にした海兵たちが山のように周囲を囲む。マルコ隊長、と仲間の叫ぶ声が聞こえたけれども、答える余裕が有りはしない。肩を押さえる手のひらが熱い。炎ではなく、久し振りに自分が人間であることを思い出させられるような、そんな灼熱。
「待ってろい、エース・・・必ず助けるからよい」
それでも処刑台の、弟のように思っている仲間を見上げたのは、マルコの意地でありプライドだ。泣きそうな顔が目に入り、情けねぇ、と呟いたのは果たしてどちらに対してなのか。白ひげ海賊団の隊長ともなれば、能力に頼らずともそれなりの戦闘をすることは出来る。素手の殴り合いは随分とやっていないが、腕前に自負はある。ただ、海楼石に捕らわれた身体は、どこまでマルコの意思通りに動くだろうか。向かってきた海兵のサーベルをいなし、鳩尾に拳を叩き込む。相手が倒れはしたが、鈍すぎる己に息が上がる。海兵たちはじりじりと円を小さくするように迫ってきており、ちい、とマルコは舌打ちした。
そのとき、海兵の頭を踏み台にしてマルコの隣に降り立ったのは、女だった。肩を掠める髪が視界を揺れ、鉈のような、女が持つには無骨すぎる武器が海兵を五人纏めて一掃する。能力者にすらダメージを与えることの出来るそれは、今マルコを苦しめている海楼石が含まれているらしいが、よくは知らない。と名乗った女は白ひげ海賊団のクルーではなく、ただエースを救出したいがために合流してきた人物だからだ。あの人を死なせたくない、そうとだけ心を語り、女は生き死にの戦場へやってきた。未だまろみを残した顔が、地に片膝を着いたマルコを見下ろす。歳に似合わず落ち着いた瞳は、誰よりまっすぐにマルコを捕らえた。
「―――その腕、切り落としても?」
「っ・・・!」
反射的に息を呑んだが、浮かんできたのは愉悦だった。元は「スペード海賊団」で、エースの右腕を張っていただけはある。白ひげの前でも臆すことなく、自分の意志を語ってみせた。今も黙って己の返事を待っている。その人にとって何が一番大切なのかを、ちゃんと理解しているのだ。
「まったく・・・嫌になるほど、いい女だよい・・・っ」
悪態は言葉だけ。この身が腕を切り落としても再生できるかは、試したことがないので分からない。それでも海楼石の手錠から解き放たれるだけで十分だ。マルコは女に向かって、己の腕を差し出した。
「やれ!」
女が腰の短剣を抜き、逆手に持ち直す。処刑台から悲鳴が挙がったが気にしない。振り下ろされた切っ先はマルコの腕を貫き、次の瞬間、血と不死鳥が鮮やかに戦場を舞った。





ちなみにどこか第569話のネタバレかというと、マルコさんが手錠をかけられるところでした。
2009年12月27日(2010年3月7日サイト再録)