大蛇丸様49歳、サスケとヒナタ11歳





「ナ、ナルト君、です・・・」
消え入りそうな声で、もともとが白い頬をそれこそ苺のように真っ赤に染めて名を囁いたヒナタに、サスケは酷く感心した。見る目があるな、と本当に心からヒナタを称賛する。意中の相手を暴露させられてしまった彼女は背を丸めて小さくなっているけれども、その隣で抱きつくように歓声を挙げているアンコは逆に嬉しそうだ。茶菓子を用意していたカブトも目を柔らかに細めて笑っているし、暗部の任務をさくさくとこなして帰宅していた兄のイタチも、表情こそ変わらないが雰囲気で迎合している。しかし肝心の相手の反応がないことで不安になったのだろう。ちら、とほんの僅かにヒナタが顔を上げて視線を動かした。その先にいるのはこの屋敷の主であり、この場にいる誰もの師である大蛇丸だ。深い椅子に腰かけ、床にとぐろを巻いている蛇を撫ぜていた彼女は、そう、と呟いてペットから指を引く。
「茨の道よ」
静かな、深い声がヒナタへと降り注ぐ。
「うずまきナルトは九尾の器。それ故に里の者には気味悪がられ、遠巻きに見られ、そしていずれは里外の者に狙われる身になるかもしれない。孤独と戦いの渦中にいることを運命づけられた子供よ。あの子と添うことは、並大抵の努力じゃ叶わないわ。それでもヒナタ、あなたはナルトがいいと言うのかしら?」
「っ・・・」
「憧れだけなら止めておきなさい。想うには相手が悪すぎる。あなたに、あの子と死ぬ覚悟があるの?」
「それ、でも・・・!」
ぐ、と膝の上で握り締められる拳が、サスケからは見えた。いつの間にかヒナタは完全に顔を上げており、必死な瞳で大蛇丸を見つめ返している。横顔は強く美しい女の顔だった。彼女に想われるナルトは幸せだろう。友としてそう感じる。ヒナタがナルトを好きになってくれて良かったと、本当にそう思う。
「ナ、ナルト君が、戦うのなら、私も戦います・・・! 弱くて、足手まといになってしまうかもしれないけど・・・で、でも、ナルト君をひとりになんて、絶対にしません・・・!」
「待ち続けるのも闘いよ。信じてあげられる?」
「信じます! わ、私はナルト君が・・・っ」
風にさらわれることなく紡がれた真摯な愛の言葉に、大蛇丸がふっと視線を緩める。椅子から立ち上がり、歩み寄られてヒナタの身体が硬直に震えた。けれども伸ばされた掌は優しく彼女の黒髪を撫で、いい女ね、と褒め言葉を贈る。ぽわん、と先ほどまでの羞恥とは異なる意味でヒナタの頬が真っ赤に染まった。大蛇丸が悪戯に笑う。
「アンコ、あなたもこれくらいの相手をさっさと見つけてきなさいな」
「えー? だって最近の男って弱い奴ばっかりなんですよ。あたしのお眼鏡に適う男なんていなくって」
「そりゃあアンコさんの我儘に付き合える剛毅な男はいませんねぇ」
「カブト、あんた何か言った!?」
「いいえ、何でも」
年上組がぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。大蛇丸は呆れたように肩を竦めてからヒナタへと再度向き直り、「一緒に死ぬためではなく、一緒に生きるための術を身につけなさい。それなら教えてあげるわ」と告げた。内容を理解し、ゆるゆるとヒナタの表情が綻んでいく。はい、と頷いた彼女と目が合って、サスケは他人事ながら小さく笑みを漏らしてしまった。努力家なヒナタは、同じく努力家であるナルトのきっと良い伴侶となるだろう。兄弟弟子として、親友として、両者のどちらも知っているサスケには、このふたりの仲が最良の縁に思えて仕方がなった。ヒナタならきっとナルトの光も影も愛し、支えてくれるに違いない。だからこそ同じように頷きを返した。
「応援してる」
心からのエールを送ったサスケに、俺もだ、とイタチも同意し、更にヒナタが照れたようにはにかむ。きらきらと、未来は愛に満ちていた。





サスケ君にとってヒナタちゃんは妹弟子。お弟子さんたちは大蛇丸様の屋敷に出入り自由です。
2011年5月4日