「Here come Flower angels!」と同じヒロインです。





携帯電話を握り締める、なっちゃんの手が震えていた。お夕飯だよと呼びにきたけど、そのことに驚いて、息を呑んで部屋の中に入る。ドアを閉めて駆け寄れば、なっちゃんの明るい色の髪までが小刻みに揺れていた。ぱき、と携帯電話が小さな悲鳴をあげる。
「・・・・・・結婚、したんだって。・・・あのバカ王子」
なっちゃんの声は掠れていた。ああ、と私の中に落胆が広がる。なっちゃんが奥歯を強く噛み締めた。
「結婚、したんだって。あのバカ王子。他人なんか娯楽でしかないって言ってたのに。眺めて引っ掻き回して楽しむのが自分のポジションだって言ってたのに!」
投げつけられた携帯電話が、壁に当たって床に落ちる。液晶画面にひびが入っているのが見えたけれど、なっちゃんの手は構わずに思い切りベッドを殴りつけた。マットレスが深く沈んで、なっちゃんの悲哀を映し出す。
「相手は王女だって!? 馬鹿にしてんじゃないわよっ! そんな肩書きであいつが惚れるわけないでしょ! あのバカ王子が・・・っ・・・あのバカ王子が、誰かに恋するわけないじゃない!」
どん、どん、と拳が叩きつけられる。乱れる髪の間から、なっちゃんの真っ赤に染まっている顔が見えた。それは怒りなんだってことは、すごく良く分かる。裏切られたって思ってるんだよね。バカ王子さんが、誰か一人の女の人を選び出すなんて。そんなこと私も考えもしなかった。そう思わせるものが、バカ王子さんにはあった。だからこれは裏切りだよ。
「誰でもいいなら、どうしてあたしじゃないわけ!? フラワーエンジェルズに選ばれて、プライバシーなんか筒抜けで、カラーレンジャーなんかと戦わされて、散々あいつに振り回されてきたのに! それなのにポイ捨て!? 結婚する女が出来たからもういいって!? 冗談じゃない! あたしはあのバカ王子の玩具じゃないっ!」
「なっちゃん」
「玩具じゃないのよ! あたしはあいつの玩具じゃ・・・! あたしは・・・・・・っ」
ぼろりとなっちゃんの瞳から涙が零れて、両腕を伸ばして横から肩を抱き寄せた。唇を噛んで、なっちゃんが俯く。堪えなくていいよ。嗚咽も愚痴も、全部全部吐き出していいから。私はここにいるから。なっちゃんの傍に、ずっといるから。
「・・・・・・好きだったんだよね、バカ王子さんのこと」
囁けば、なっちゃんの手が私の背中にきつくしがみ付いてきた。溢れる涙に私まで悲しくなってくる。それと一緒に、ひたひたと怒りが湧いてくるよ。バカ王子さんは賢い人だもの。きっと、なっちゃんの気持ちを分かっていた。酷い仕打ちだよね、本当に。
大丈夫だよ、なっちゃん。フラワーエンジェルズは宇宙の女性の味方だから。私はいつだって、なっちゃんの味方だからね。





ボディに一発、顔面に二発





(あのね黛君、バカ王子さんに夜襲を仕掛けたいんだけれど、今夜付き合ってくれますか?)
2008年8月3日