答えが解けたのでたまたま応募した懸賞が見事に当選しました。
私の家は私と母の二人家族なのですが、母に一緒に行こうと誘ったら、その日は出張なんだと断られてしまいました。
「彼氏と行ったら?」と笑いながら言われたので、「いいの?」と聞いたら母は少し考えた後、頷いて返しました。
(「責任の取れないことはするんじゃないわよ?」と釘を刺されはしましたが)
というわけで、誘ってみようと思います。
ちょうど彼の誕生日も近いことですし。
一緒に行きませんか? 功刀一くん。





祝福を貴方に





昼休みの中庭。
少し肌寒い季節になってきたからか、生徒の姿はほとんど見つからない。
そんな中で一緒にお弁当を食べている、私とカズくん。
「あのね、カズくん。来るべき11月9日は予定が入ってますか?」
敬語に喋りは癖なんです。気にしないで下さいな。
「11月9日って言うたら俺の誕生日やな。もちろん空いとるわ。が祝ってくれるんやろなぁ?」
カズくん自信満々ですね。いや確かにそうなんですけど。
「ハイ、もちろんです。それでですね、私もカズくんの誕生日プレゼントを何にしたらいいのか考えたんですけど、ずいぶん迷ってしまって」
「ほう」
「クラスの皆やカズくんの部活仲間、果ては九州選抜の皆さんにも聞いたんですけど、なかなか決まらなくって」
あ、今カズくんの眉がピクリと動きました。
「九州選抜の奴らに聞いたんか?」
「はい。先日の練習試合を見に行ったときに、キャプテンさんや高山君に聞いてみました」
カズくんは不愉快そうに顔を歪めて、「ショーエイのやつ今度会ったらぼてくりこかしちゃ」と呟きました。
とりあえずごめんなさい。高山くん。
「それでですね、一生懸命は考えたんですけどいい案が浮かばなくって」
がくれる物なら何でもよか」
さらりと気障な台詞言わないで下さいよ。
(いや、似合わないとかそんなんじゃなくって。むしろ似合いすぎてて困るんです)
「というわけで、懸賞で当たったものなんですけど、よければご一緒しませんか?」
「何処なん?」
「電車で一時間行ったところに新しく出来たスパです。温水プールやら浮き輪滑り台やらのある遊べる施設ですね。付属のホテルで開店記念にお客様ペアで無料ご招待をしてたんで、応募してみたんです」
そしたら見事当選。ラッキーですよね。
「・・・・・・・・・」
どうしましたカズくん。黙っちゃって。
その信じられないという顔はなんですか?理由は大体想像できますけど。
・・・お前今、一緒にプール行こうって言うたんか?」
「プールじゃなくてスパですけどね。水着を着ることには変わりませんが」
驚いてます驚いてます。カズくんの目が大きく見開かれています。
うん、驚きますよねぇ。
だって私は今年の夏もいくら誘われてもプールや海にだけは行きませんでしたから。
(カズくんはそれはもうしつこいくらい私を海に誘いました)
水着になるのって抵抗があるんですよ、私。
「カズくんが着て見せろって言ってたビキニも買ったんですよ」
黒地に大きく花のプリントされたビキニなんです。
「今まではずっと行かないって言ってたけど、今回はカズくんの誕生日だからいいかなって思いまして」
カズくんはもう一度目を大きく見開いた後、よっしゃ! とガッツポーズを作りました。
その顔が少しだけ赤くなっていて、だけど本当に嬉しそうで、私もよかったなぁとしみじみ思ってしまいます。
「だから9日は一緒に出かけましょうね」
「デートって言わんか」
「はい、デートしましょう。待ち合わせは何処にしますか? 駅の西口にある切符売り場にしましょうか」
「時間は何時なん?」
「午前9時半でどうですか?」
私が聞いたらカズくんはオッケーを出してくれました。
でもねカズくん、これだけがプレゼントじゃないんです。
「ご家族の方には、泊まるって言っておいてくださいね」
あ、カズくんがピタッと止まりました。
ちょっと面白いかもしれない、なんて思ってしまったので、私はついつい笑ってしまいそうになりました。
「だってこれ、付属のホテルの無料招待券なんですもの。一泊二食の二人部屋、スパは入り放題のコースなんです」
止まったカズくんはまだ動かない。
そんなに驚いたのかなぁ。驚きますよね、普通なら。
「私はもうお母さんにちゃんとお話して許可は取ってあります」
お母さんはまだカズくんと会ったことはないけれど、お話だけはいつもたくさんしてるんです。
カズくんは私が好きになった人なんだって。
こんなに優しい気持ちで愛しく思える人は初めてなんだって。
いつかお母さんにちゃんとカズくんを紹介できたらなぁって思います。
「あとはカズくんだけなんですけど、どうします?」
嫌なら行かなくても構わないんですけど。
そう言ったらカズくんは私の両肩を掴んで、じっと顔をのぞきこみました。
「・・・、それ本気で言っとんのか?」
カズくんが真剣な眼差しだったので、私もコクンと頷きました。
「お前、意味分かって言ってるんやろな? 俺はお前と二人でホテルに泊まったら、絶対に処女のままでは帰さんぞ?」
・・・・・・カズくん、言い方が直接的すぎます。
まぁ、そうなることを望んでいる私がいるんですけどね。
付き合ってもう一年近く経つし、私はカズくんのことを本当に好きだから。
カズくんも私のことを大切に思ってくれてるって分かっているから。
「誕生日プレゼントは私ってことで」
定番中の定番ですけど。
そう言ったらカズくんは顔をくしゃくしゃっとして照れたように笑いました。
その後で私をぎゅっと抱き寄せて。
「好きや。本当にのことが好きじゃけんなぁ」
嬉しくって幸せで、私も頷き返しました。
「私も、カズくんのことが大好き」
初めて一緒に迎えるカズくんの誕生日を本当に心から愛しく思いました。
カズくんのことをもっと好きになれる。
そんな予感を感じました。





余談ですけど。
カズくんは約束したその日の夜に我が家を訪れ、お母さんにきちんと挨拶をしてくれました。
自分を見て判断した上で一緒にホテルに泊まることをちゃんと了承してくれるよう、カズくんはお母さんに言っていました。
お母さんは「貴方たちはまだ中学生なんだから、避妊だけはしっかりしなさいね」と言っていました。
世間一般の母親はどうなのか知らないけれど、私のお母さんはこういう人なんです。
今度の休みにはカズくんのご両親にお会いする約束をしました。
もはや家族公認の付き合いになるわけですか。
カズくんとのこんな関係が、一生続いたらいいなぁと強く強く思いました。





2002年7月14日