こんにちは、です。
今日はちょっとお出掛けして契約を結んでセクハラを退治してその帰りにオープンカフェにてケーキを食べてます。
あーもー・・・・・・帰ったら書類整理と夕飯の準備と再来週のプラン決めなくちゃ。
それに新しい仕事に見合うキャラも見繕わなきゃだし・・・。
とりあえずはスガと、あと・・・誠二、それに亮にしておくかなぁ。
イメージ違うって言われないといいんだけど、あーでもあの人厳しいしな。
どっかにいいキャラはいないかしら・・・・・・。



ピコーン



レーダーに反応あり!
どこ!? どこにいるの私の可愛い獲物ちゃんはっ!



人通りの多い道を左右180度どころは360度の勢いでチェックして。
視界に黒髪が映る。
――――――発見!



「ねぇそこの美少年三人組、ちょっとストップ!!」



大声で叫んだのに振り向いた人波を掻き分けて、オープンテラスからダッシュで走って。
一番手前にいた黒髪の男の子の腕を捕まえた。
きつそうな目元がよい感じ!



「君たち、芸能界に入らないっ!?」





スター☆誕生(モデル編)





代金も支払わずに食い逃げ状態だったカフェに戻ってきて、店員さんにニッコリ微笑んで謝罪を述べた。
相手が男の人だったから素直に引き下がってくれたよ。
自分の顔ってあんまり好きじゃないんだけど、こういうときは非常に役立ってくれて嬉しい限りね。
「本当に好きなもの頼んでいーの?」
茶髪のふわふわ君が聞いてくる。
「えぇ、何でもどうぞ。そちらの二人もね」
ふわふわ君とは違って警戒心バリバリ出してる黒髪つりめ君とアジア系美人君。
・・・・・・うん、さすが私。やっぱりこの仕事は天職だわ。
「すいません、本日のおすすめケーキを三つずつ、全部セットで。コーヒーと紅茶とリンゴジュースね!」
ふわふわ君、ずうずうしすぎ。



「・・・で? お姉さんは俺たちに何の用?」
本日のおすすめケーキ三種類×三つずつ=計九個の半分を平らげたところで、ふわふわ君がようやく本題に入ろうとしたらしい。
ちなみにつり目君はアップルパイを食べた後、二個目はリンゴのムース。
美人君はコーヒーだけで甘いものは食べないらしい。
「私は樋口プロダクションの職員なの。君たち三人をスカウトさせてもらおうと思って」
「お断りします」
美人君に一蹴されてしまった。
そのあまりのフォローのなさにつり目君が慌てた様に顔を上げる。
「え、英士」
「何、一馬。だっていきなり声かけられてスカウトだって言われても信用しろって方が無理でしょ」
「確かにそのとおり」
美人君・・・じゃなくてエイシ君? 賢い人生を歩んでていいわねぇ。
私もそんな人生を送りたかったわ・・・・・・。
とりあえず鞄から取り出した名刺を三人に渡す。まぁ証拠にはならないだろうけど。
「樋口プロってあれ? 小早川珠里が所属してる」
「うん、そう。じゃあ彼女に会ったら私のことも信用してもらえるかな?」
エイシ君とやらに向かって笑ってみせた。
そうしたら表情の少ない顔で少しだけ考えたらしくて。
「・・・・・・まぁ、一応はね」
「なら契約書にサインするときは珠里も呼んでおくわよ」
つーか一声で喜んで帰ってきそうだしなー・・・・・・。
社長、あの人の相手は頼んだよ。



結局ケーキの内訳はふわふわユウト君6個、つり目のカズマ君2個、エイシ君0個、でもって私が1個。
おいおいユウト君・・・・・・君はそれだけ食べてよくそのスタイルが維持できるねぇ・・・。
食欲では誠二にも負けてないよ・・・・・・。
「・・・・・・あの」
カズマ君が戸惑ったように、困ったように私に声をかける。
うん、やっぱり私のレーダーは完璧だわ。さすが、私! この道13年!!
「あの・・・俺、歌とか歌えないし、楽器も出来ないし、踊りも出来ないから無理だと思うんですけど・・・」
「そう? まぁそこらへんは一から教え込めばそれなりに形になると思うけど」
素材はよさそうだしね。というか第一条件のヴィジュアルは余裕でクリアーしてるし。
「それにね、君たちはアイドルにしたいわけじゃないから」
私の言葉にユウト君は首を傾げ、カズマ君は目を瞬いて、エイシ君は眉をひそめた。
理想的な反応だわ、三人とも。だから、ね?



「モデル、やってみない?」



「実はさー依頼が入ってるんだけどピッタリの素材がいなくて困ってたんだよね。今うちの事務所にいる中から選ぼうかと思ってたんだけど、君たち三人を見つけちゃったし。すごく似合うと思うんだ。どう?」
「どうも何もカメラに向かって笑う趣味はないから」
「あ、いいよ笑わなくて」
そう言ったらエイシ君はますます胡散臭そうに顔をしかめた。
そういう反応には慣れてますからねー。だてにこの業界で仕事はしてないよ。
「笑うのはユウト君だけでいいよ。カズマ君とエイシ君は笑う必要ナシ」
ピシッと指さしたらユウト君はやっぱり首を傾げて。
「カズマ君は笑うよりも睨むくらいの視線がいい。その少しきつめの目で、まっすぐに相手を見据えるように。口元を結んだ顔が透明だけど尖ったような雰囲気に良く似合う」
カズマ君は何故か真っ赤に顔を染めた。
「エイシ君はむしろそのままで。笑うこともなく、でも睨むこともなく、ただ静かにそこにいるだけでいい。それだけで空気は清浄なものになるし、流れるような仕草も全部絵になる」
エイシ君は驚いたのか、ちょっとだけ目を見開いて。
「だけどユウト君は笑って。その明るい笑顔で周囲も明るくさせて。だけどそんな君が一瞬だけ真剣な顔を見せたとき、それは一番目に焼き付く瞬間となる。忘れられない、一瞬に」
ユウト君が大きな目をさらに大きくさせた。
そんな三人に私は微笑む。



「嘘か本当かどうか、試してみない?」



われながら、営業マンになれると思うわ・・・・・・。



「なぁさん! マジで契約のときに小早川珠里を呼んでくれんの!?」
ユウト君が大きな目をキラキラさせながら聞いてくる。
「呼んであげるよ。お望みとあらば」
「うわ、マジ!? 絶対だからな!」
「うん、オッケーオッケー」
そのあとでイメージと違ったって泣き出すのは君だと思うけどね。
三人から聞いた連絡先を手帳にしっかりと書き写して、と。
「じゃあ契約については社長が自宅の方に伺うだろうから、詳しいことが決まり次第連絡入れるわ。少なくとも三日以内に」
「三日・・・・・・?」
「こういうのは何事も早いうちがいいのよ」
その間に他の事務所に取られかねないし。
それに例の仕事の期日も迫ってきてるし!
「どうぞよろしく、ユウト君、カズマ君、エイシ君」
微笑んで挨拶をしてみたら。
「よろしくっ!」
「よ、よろしくお願いします」
「・・・・・・よろしくお願いします」
はい一番最初にやることが決定しましたー。
アンタたち、挨拶から徹底的に仕込むよ。覚悟してなさいね?



というわけで樋口プロダクション、本日優秀なモデル候補を獲得しました!





2003年6月19日