光り輝くブラウン管の中。
華やかで色鮮やかに繰り広げられる世界。
入れるのは特別なオーラを持つ限られた人間のみ。



「八時だ! ビデオ稼働よし!」



そう、そんなアイドルを作り出すのが私の仕事!





スター☆誕生(Blossoms編)





『はい、本日の一組目は初登場・Blossomsのみなさんでーす!』
司会者の声とともに映る四人の少年たち。
そして上がる黄色い歓声。
オッケーオッケー、やっぱこの番組の観客は若い女の子中心だからね。食い付きはヨシ!
『初登場でいきなりのランキング3位、おめでとうございます!』
『あ、ありがとうございます』
照れたように茶髪の少年が礼を述べて、他の三人もカメラに向かって頭を下げる。
金髪の少年は、おまけにウィンクまでつけたりして。
うわ、叫ぶし、客が。
やるなぁ。やっぱスカウトしたのは正解だった!
『じゃあ自己紹介をお願いできますか?』
司会者の言葉に、四人の少年たちにカメラが向いて。
あーもう落ち着いて。緊張しないの。
『Blossomsのリーダー・水野竜也です。よろしくお願いします』
最初に礼を述べた茶髪の少年が頭を下げた。
そしてニコッと控え目に笑う。
ヨシ、竜也オッケー! 上手く出来たね、花丸あげるよっ!
『ぁ、えっと・・・か、風祭将です! よろしくお願いします!!』
小柄な少年が真っ赤な顔で頭を下げて。
そうしたらもう女の子たちが『可愛いー!』って叫ぶ叫ぶ。
そう、その可愛い少年キャラで売っていくのよ、風祭。
その可愛さは武器なんだから! そしてその性格もね!
『佐藤成樹や。シゲちゃんって呼んでな?』
やっぱりここでもウィンクを完璧に飛ばした金髪の少年。
あーもういいね、この整った顔で関西弁を喋るってところが親近感があっていいよ。
金髪も加工してるとは思えないほど自然に似合ってるしねぇ。
竜也とはこれまた違うタイプの美少年だし。
『不破大地だ。よろしく頼む』
・・・・・・・・・不破ってば。
ちゃんと挨拶は教えたんだけどなぁ。うん、でもいいよ。君はこのキャラで売るんだしね。
外見は完璧に女の子受けするカッコ良さだし、ちょっと怖そうなのもこれまたオッケー。
でも中身はきっと年上のおば様方に受けるとみた。
きっと可愛がられてお茶の間の話題にのぼるぞー。あはは、楽しみ。



綺麗系の水野竜也
可愛い系の風祭将
カッコイイ系の佐藤成樹
不思議系の不破大地



以上四人から構成されるのが『Blossoms』というアイドルグループ。
歌って踊れるがモットーです。
つーかそう仕込みました。私が!



自己紹介も済んで、司会者は次の話題に移る。
一組目とはいえいきなりオリコン初登場3位だからね。今人気急上昇中のグループだし、時間がそれなりに割いてもらえる。
今時のアイドルは歌と踊りだけじゃやっていけない。
ここらでちゃんと喋っとくのよ、あんたたち!



『四人はスカウトされて芸能界に入ったんだって?』
司会者からネタが振られる。
生放送だからかなー。今まで何度も受け答えを繰り返してきたネタでも緊張するわぁ。
『はい、そうなんです。四人一緒にスカウトされて』
『四人一緒?』
『はい。街を歩いていたときに偶然』
竜也が緊張を浮かべながらもスラスラと返していく。
うん、いいよ。完璧に慣れてるよりもこっちの方が受けがいい。
『じゃあ四人は元から知り合いだったんだ?』
あ、今度は風祭に話が振られた。
『あ、はい、そうです。僕たち、サッカーで知り合って』
『サッカーやるんだ?』
『はい』
風祭がすごく嬉しそうに微笑んだ。
今の笑顔で母性本能が強い女性陣は落ちたな。さすが、無敵風祭。
『じゃあサッカー選手とかになりたかったんじゃないの?』
『んーせやけどアイドルもえぇなぁと思いましてん。何より俺ら、カラオケも好きやし』
『カラオケって、何歌うの?』
『やー何でも歌いまっせ? 演歌からアニメまで何でも来いですわ』
シゲが会場の笑いを誘う。『歌ってー!』って声が上がるのに手を振って『今度なぁ』って答えて。
・・・・・・・・・ここらへんは、私が仕込んだわけじゃないんだけどなぁ。
シゲ、あんたの天職はアイドルかホストだよ。
『前からアイドルになりたいとか思ってたの?』
『いや、そのようなことは考えたこともない』
『・・・・・・・・・じゃあ、何で?』
まともな受け答えを願うよ、不破・・・・・・・・・。



『スカウトしてきた職員に美味い食事を食わせてやると約束されたからだ』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



『ふ、ふふふふふふふふふ不破君っ!!!』
『〜〜〜〜〜バカッ! それは言うなって言われてただろ!!』
『何故だ? 俺は正直に答えただけだが』
『あははははっ・・・・・・ははははははははは! ふ、ふわ・・・・・・・・・・あんさん、ホンマにナイスや!!』
『シゲさんも笑ってないで否定して下さいっ!』
『す、すいません、今の嘘ですから! 冗談ですから!!』



ものすごく無駄なことしてるわよ、竜也。
シゲもそんなに笑いすぎると、いくら薄いとはいえ化粧が剥がれるわよ。
風祭、もういいからちょっとは落ち着きなさい。歌う前から息切らしてどうするの。
それと、不破。



不破。



チャラ・チャララララチャラ・チャラチャララ
Blossomsのデビューシングルにしてオリコン初登場第3位の『Try on my dreams』が流れる。
これはBlossomsメンバーとそのマネージャー専用の着メロ。
とりあえず奴らはスタンバイのために場所を移ったけど、まぁ今かけてくるほどバカじゃないでしょ。
イントロがテレビから聞こえてくるのと重なってよい感じ。
カメラフットワークに文句をつけながら通話ボタンを押した。



「はい、もしもし功さん?」
『あ、さんですか? 俺ですけれど・・・・・・・・・』
「判ってる。不破ね」
『・・・・・・はい。すみません』
「功さんが謝ることじゃないって。不破はあのキャラで売っていくって決めたからアレでいいのよ。まぁ言ってイイコトと悪いコトの区別は覚えさせるけどね」
『それならいいんですけど・・・・・・』
「この番組が終わったら今日はもう上がりよね? だったら不破に伝えといて。『今夜は腕によりをかけて作るから、もう何も喋らずに帰ってきなさい』って」
『・・・・・・・・・・・・・・・判りました』
「お疲れ様」



不破はちゃんと手綱をつけておかないと、そのうち事務所の裏話まで素で話しそうだわ。それだけは、止めないと。
これ以上厄介ごとを抱え込みたくないのよー! ただでさえうちは大手ってわけじゃないんだから!!
余計なこと話したらもう二度とご飯作らないからね!
アンタは今日のうちは黙って大人しく手でも振ってなさい!!
アイドルは笑顔だけでも客を魅了しなくちゃいけないんだからっ!
出来ないようなら今晩はお茶漬けに決定してやるわ!!



手塩にかけてプロデュースした彼らが、初めてのブラウン管デビューを果たして拍手を浴びる。
その瞬間の彼らの、照れたような、それでいて誇らしげな笑顔。
輝ける人間が、もっとも輝く瞬間。
「・・・・・・それが見たくて、この仕事をやってるんだもんね」
ビデオの録画ストップを押して立ち上がった。
とりあえず、お腹を空かせて帰ってくるアイドルたちのためにご飯でも作りますか。



美少年四人からなるアイドルグループ・Blossoms。
彼らのデビューシングルが一位を攫うのは、翌週のオリコンチャートのことだった。
よっしゃ!この調子でガンガン売るわよーっ!!



なんたってアイドルは金になるんだからね!





2003年6月17日