いつまでも、一緒にいたいね。





インターメント





夕方、太陽が沈む頃になると少女は棺の前で今か今かと時を待つ。
彼は夕日が完全に姿を消すと同時に、いつも起きてくるから。
部屋のカーテンを閉めて、やかんにお湯をたっぷり入れて沸かしておいて、テーブルの上にはチョコレートケーキ。
あとは彼が起きるのを待つだけ。
少女は棺の横に座り込んで、瞳を輝かせながら待っていた。
彼が、目を覚ますのを。
カタンと、棺の中で小さな音がした。
それを耳聡く聞きつけて、少女は思わず腰を浮かす。
目の前でゆっくりと棺の蓋が開けられて、身体を起こす青年。
青い服と、金色の髪が揺れた。
「おはようっカーダ!」
思い切り抱きついてきた少女にカーダは目を細めて、そしてその背を抱き返す。
「おはよう、
夜が始まる頃に、二人の一日は始まった。



カーダという金髪の青年は寝ていた棺から起き上がると、窓から外の様子を窺って、辺りが暗くなっているのを確認した。
これからが、彼の時間。
はそんなカーダの腕にしがみつくと、ベッタリと離れないようにぶら下がる。
カーダは苦笑してその身体を抱き上げた。
バンパイアとしては力のない方だけれど、まだ10歳にも満たないの身体くらいはいとも容易く持ち上げられる。
そして自分と同じ金色の髪にキスを落とした。
嬉しそうに声をあげて笑うのキスを頬に受けながらキッチンへと行くと、テーブルの上のケーキが目に付いた。
「あのね、あのねっ今日、このケーキもらったの」
自慢げに報告してくる養い子にカーダは首をかしげる。
「貰った?一体誰にだ?」
「そこのおかしやさん。あめ買ったらね、おまけって」
「・・・・・・・・・」
それは、可笑しい。カーダはそう考えて秀麗な顔をにわからない程度に顰めた。
テーブルの上には、苺の載ったチョコレートケーキが二つと、小さな飴玉の入った袋が一つ。
飴玉はどう見積もってもコイン二枚で買える程度。明らかに「おまけ」と称されいてるケーキのほうが高額だ。
それを善意で配る菓子屋が果たしているのかどうか。結果は否。配らない可能性の方が配る可能性よりはるかに高い。
そして保護者である自分の欲目を抜きにしてもは可愛い。とても可愛らしい女の子なのだ。
すべてを考慮した上で、残された可能性は言わずもがな。
「・・・・・・・・・・・・、そのお店の人に何か言われたか?」
カーダの問いにはきょとんと首をかしげて、そして小さな口を開いて告げた。
「うん、言われたよ。こんどいっしょにお出かけしようって」
「・・・・・・・・・・・・あの店の店主は男だったな」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・40歳になってもまだ結婚をしていないと評判だったな」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「カーダぁ?」
急に黙り込んでしまったカーダの頬をペチペチと叩く。
それでも反応を示さないカーダにむくれて、その頬をむにっと引っ張った。
さすがのカーダもこれには反応せずにはいられない。
「にゃ、にゃにしゅりゅんだ」
「だってカーダ、お話してくれない」
「ぅあ、ぅあかったかりゃはにゃせ」
「むー」
ふてくされながらもはその小さな手をカーダの頬から退かした。
そしてうっすらと赤くなってしまったそこにチュッと音を立てて唇を落とし、また嬉しそうにカーダの首に抱きついた。
可愛らしい仕草にカーダとしては苦笑を漏らさざるを得ない。
落とさないようにを再度抱きなおして、自分からもキスを贈った。
「ケーキを食べて荷物をまとめたら出発しよう。次はの行きたがってた遊園地のある街にでも行こうか」
「ほんとっ?」
「あぁ。途中でお菓子もたくさん買っていこうな」
「うん!」



とりあえずは温かいお茶でケーキを食べて、そうしたら夜の街へと出発。
もちろん例のお菓子屋さんへ寄ることは忘れずに。
養い子がお菓子を選んでいる間に、保護者は何やら店主と仲良く会談して。
コイン二枚じゃ到底払えない量のお菓子を快く提供していただいて、両手に抱えていざ出発。
残ったのは真っ青な顔で震える中年男が一人。

「ねぇカーダ。なんのお話してたの?」
クイクイッと袖口を引っ張るから、その手を取って優しく握りこむ。
「ん?特にたいした話じゃない。この街を出る前にお別れの挨拶をしておこうと思って」
「ふーん?」
「さてと、明日の朝までには次の街につかないとな。落ちないようにつかまったか?」
「うん」
「じゃあ行くぞ」



バンパイア特有のスピードでもって、養い子を背負った保護者の姿は一瞬で見えなくなった。
背中にあるぬくもりは温かくて、まだまだ手放す気は全然ないから。
というか、ずっと一緒にいたいから。
チョコレートケーキと引き換えなんてもっての外!

「嫁に出す気はないからなぁ」
「カーダぁ?」
「なんでもない。スピード上げるぞ、。つかまっておけよ」

こうして親子にも見られかねない二人は街から街へと渡り歩いて。
今日ものんびりと暮らしているのでした。





2003年4月18日