―――――――――――浮かぶ、顔。



明るく笑う親友。
たわいもないことでケンカもした。
意味のないことも笑いあった。
サッカーでは負けたくなかった。
最高の仲間で最高のライバルだった。





もう、いない。





Bloody Marionette





扉を開けたとき、アレが一体何なのか判らなかった。
天井へ向かって伸ばされた、手と足。
指はなかった。
校則違反だなんて言っていたけれど、実は好きだった色の髪。
血で赤く染まってた。
自分とは違う、大きくて丸い目。
抉り出されて転がっていた。
教科書でしか見たことのなかった、臓器。
誰のものかも分からなかった。
全部全部全部、親友のものだったのに。



もう、いない。



もう、会えない。





『一馬!』





「・・・・・・っまえが・・・・・・!」
支給されたサバイバルナイフを握り締める。
まだ汚れてもいない新品同様のそれを。
「おまえが結人を・・・・・・・・・っ!」
汚してもいいと思った。
「――――――――――結人を!!」



もう一人の親友のが、自分の名を呼んだのが聞こえた気がした。
韓国にいる親友は元気だろうか。
今もサッカーをやっているのかもしれない。
結人はどうだろうか。
あの世でサッカーをしてるかもしれない。





待ってて。
コイツを殺ったら、俺もすぐ逝くから。





パララララララという音と共に
真田一馬は体中に穴を開けて崩れ落ちた。



一瞬で鼓動を止めてもなお、彼はナイフを手放さなかった。





「・・・・・・・・・一馬・・・っ!」
止める間もなく踏み出して、そして倒れた親友をまるで映像のように郭は見ていた。
真田が倒れ臥して、その向こうにいる相手が見えるまで。
銃口が自分に向けられているのに気づくまで。
郭は認識できなかった。
―――――――――――これが、現実なのだと。



親友を二人とも、失ってしまったのだと。



「―――――――――――おまえ・・・・・・っ!」
ガシャンと椎名が銃を構えた。
両手で、少女へと向かって。
トリガーを引く指に力がこもった。





・・・・・・・・・カシャン





もう一つの金属をやけに近くで感じ。
右のこめかみに冷ややかな感触。
心臓が止まりかけて
汗が伝った。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何のつもりだよ、笠井」





それだけ呟くのに精一杯だった。





「・・・・・・・・・さんは殺させない」
手に持ったS&Wを椎名のこめかみに突きつけて、笠井は告げる。
さんを撃つより早く、俺があなたを殺す」
カシャンと音がした。
「・・・・・・・・・・・・やはりおまえが共犯だったか」
―――――――――――不破が、笠井へと銃口を向けた。



不破が笠井へ
笠井が椎名へ
椎名が少女へ
少女が郭へ



糸で紡がれているような
頼りない膠着



いつでも引き金を引ける状態。



「・・・・・・・・・いくら怒りに駆られていたといえ、女は女だ。一人で、しかも短時間であそこまで人間一人をバラせるはずがない」
不破は銃口を笠井に向けたまま問いかける。
「知り合いなのは同じ武蔵森中の渋沢・三上・藤代・笠井の四名。渋沢と三上は若菜が殺されるよりも先に放送で名が呼ばれた。そして今、藤代が共犯ではないということが判った。ならば残るのはおまえのみ」
トリガーに、指をかけて。



「おまえがに手を貸したのだな」





「・・・・・・・・・そうだよ」





笠井は、笑った。





「手を貸してくれたといっても、殺したのは私だよ?」
スカートに手を伸ばし、挿していたベレッタを左手で取り出した。
そして迷わずにそれを不破へと向ける。
右手は郭に。
左手は不破に。
「だって、女の子いじめてたんだもん。殺しても、当然でしょ?」



少女は笑った。





「男なんて大っ嫌い」





泣きそうな顔でリボルバーを握り締めた笠井がいた。





2003年3月12日