この話はバトフエ(=バトルロワイアル・ホイッスル)です。
残虐的表現、グロイ表現等が出てきますので苦手な方は速やかにブラウザにてお戻り下さい。
それと上条麻衣子・鳴海貴志・小島有希・若菜結人のファンの方はお読みにならないで下さい。
この四人の扱いはハッキリ言って悪いです。
注意書きを無視して閲覧し気分を害されても苦情は受け付けませんし責任も負いませんので、悪しからず。
それでも良いと仰る方のみどうぞ。
























五階・一年二組の教室にあった鳴海貴志の死体。
首・両肩・肘・手首・腹部・股関節・膝・足首
計十四箇所で切断された体はその部屋のものらしい真っ白なカーテンに包んであった。
一つでは入りきらず、二つに分けて。
その近くには、いくつか並べ合わせた机の上で横たわっている上条麻衣子がいた。
彼女の死に顔はとても穏やかだった。



二階・保健室にあった若菜結人の死体。
抉り出された目・切り取られた舌・削がれた耳・切り開かれた上半身・転がる胃・伸ばされた腸・変色した心臓
死体とは言いがたいほどに刻まれた身体はすでに人間とさえ判断できなかった。
バラされて、標本のように綺麗に並べられたパーツ。
同じ部屋のベッドでは苦しみもがいた顔で永眠している小島有希がいた。
彼女は明らかに強姦されていた。



放送が死者の名を告げた。
残り、七人。





Bloody Marionette





「うそ・・・・・・・・・・だ」
藤代誠二の言葉が教室に響いた。
「うそ、うそだ、うそだうそだうそだ。だって、そんなことない。絶対に、そんなことない」
半ばうなされたように否定し続ける。
「だって、そんな嘘だ。証拠なんて、ない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここにいる俺たちは誰も二人を殺ってない。これ以上に明確な証拠はないだろ」
椎名翼が苦々しそうに告げる。
けれど藤代は何度も首を振って否定する。
「うそだ。そんなの、誰かが嘘ついてるのかもしれないじゃん。絶対、うそ。うそだよな。なぁ竹巳?」
真っ青に顔色を変えていく藤代の言葉に、笠井竹巳は何も言えずに黙り込む。
返答を得られずに、藤代はただただ嘘だと首を振って。
不破大地が、口を開いた。
「ここにいる誰もが殺していないと主張している。その証言を信用するのなら残りの一人が殺したことは明白だ」
「そん、なの。もう死んだ奴の誰かがやったのかもしれないじゃん」
「確かにその可能性もありえる」
いつもと同じように考察を繰り広げて、不破は頷く。
「だが鳴海と若菜をあそこまで切り刻んで殺す理由のある者がいるのか? 上条と小島を殺されて怒った桜上水の面々ならやるかもしれないが、俺を抜かして最後の桜上水の生徒だった佐藤も先ほど死んだ。そして佐藤の武器は拳銃だった。拳銃では人間の体を切り刻むことは出来まい」
「・・・・・・・・・結人が殺されたのは、風祭と佐藤の間だったからね。佐藤じゃなければ、桜上水以外の奴でしょ」
顔色の悪い郭英士が不破の言葉をかみ締めて頷く。
真田一馬が、きつく唇をかみ締めて血が伝った。
「若菜と佐藤の間に死んだのは、間宮と柾輝。間宮に鳴海と若菜をあんなふうに殺す理由があるか?」
椎名の問いに答えられるものはいなかった。
カタカタと藤代の体が震えだす。
恐怖にか、驚愕にか、一体何を思えばいいのか。
体だけが拒否し続けて震え、デイバッグが床に落ちた。
カシャンと音が響いて。
けれど動くことも出来ずに。
不破は淡々と話を続ける。
「桜上水の生徒ではない奴に、鳴海と若菜をあんなふうに殺す理由はない。そう考えたのがそもそも間違いだったのかも知れんな」
「・・・・・・・・・間違い・・・?」
真田の声もわずかに掠れていた。
椎名が、小さく息をついた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おまえも、そう考えたか」
「あぁ、そう考えればすべての辻褄が合う。鳴海と若菜があそこまでされた理由も、上条と小島に感じた違和感もすべて」
「違和感・・・・・・・・・?」
郭の口から零れた呟きに不破は頷いた。
その後を引き継いで椎名が話す。
「そのころ一緒に行動していなかった郭と真田は知らないだろうけど、上条は本当に穏やかな顔で死んでたんだよ。机をいくつか合わせた上に手を組んで横たわってた。制服は・・・・・・所々破けていたけれど、きちんと整えられていて、眠ってるみたいだった」
今でもありありと思い出すことが出来る。
教室の奥、窓際に並べられていた机。
その上で白雪姫のように眠りについていた少女。
違うのは、それが永遠の眠りということ。
胸に一つ、大きな穴が開いていたということ。
そして彼女から見えない位置にあった少年の寄せ集め。
まるで、ゴミ袋に入れられたかのように。
「小島はおまえたちも見ただろう。顔こそは苦しんでいたが、それは死後硬直によって固まってしまったもの。清潔なほうのベッドに移動されていたし、体は綺麗に拭き取られ、傷ついた箇所には手当てが施してあった。死んでいるのにも関わらず、だ」
不破の言葉に郭も真田も思い出す。
あの時は親友の無残な有様に気を取られていて、少女を見ることなどろくにしなかった。
それなのに、情景だけはよみがえる。
ベッドに寝かされていた少女。
苦痛と拒絶、恐怖と悲しみに溢れていた顔。
もう片方のベッドにはドス黒い血がついていた。
体中には殴られた痕があり、犯された跡があった。
そしてカーテンを隔てたところに並べられていた少年のパーツ。
まるで、人間の体内を表す地図のように。
「以上の点から判る事がある」
不破は、続けた。
「鳴海と若菜は上条と小島を殺したから殺されたのではない。――――――二人を強姦した、またはしようとしたから殺されたのだ」
「そして殺ったのは桜上水の奴じゃない。なら残る可能性は少ない。上条と小島と知り合いだった奴は桜上水以外にいないし」
「知り合い以外で鳴海と若菜をあそこまで無残に殺す者。それは唯一つだろう」



「殺した人物は上条と小島と同じ・・・・・・・・・・・・・・・・・・女だと、いうことだ」



息を呑む音が響いた。



椎名が乱れた髪をかき上げて言いたくなさそうに、それでも口を開く。
「・・・・・・・・・同性、しかも女ならあそこまでして殺すのにも納得できるんだよ。・・・・・・レイプは、女にとって最悪の犯罪だから」
「・・・・・・・・・だからってあそこまで・・・・・・」
「それほど許せない行為なんだろ」
真田の反論も切り捨てて、椎名はもどかしげに髪を乱暴にかき混ぜる。
「同じ女がレイプされて、それが許せないから殺した。ただ殺すだけじゃ納得できないから、あんなふうに殺した。考えてみりゃ当然のことだ。―――――くそっ! 何で気づかなかったんだ!!」
ダンッと拳を机に打ち付ける。
ビクリと郭が肩を揺らした。
「そしてそれを裏打ちするように残っているのは俺たちのほかに唯一人」
藤代の目から涙が零れた。





「・・・・・・・・・、ちゃん・・・・・・」





バリンと音が割れて
振り向いた先、ヒビの入ったガラス戸が見えた。
その角から顔を覗かせている細い筒。



―――――――――――銃口



「ふじし・・・・・・・・・っ!」
叫んだのは誰だったのか。





三発の銃声とともに、藤代の体はスローモーションのように崩れ落ちた。





2003年3月10日