強豪華武高校野球部所属一軍ピッチャー。
そんな素晴らしい肩書きとそれに見合った実力と体格とを持ち合わせている青年。
彼の名は――――――屑桐無涯。
ひとたび視線を向ければその眼光に迫力を覚え、後ずさるものは数え切れない。
そんな彼には秘密があった。

可愛いものが好きだという、その風貌と印象にまったくもってそぐわない秘密があったのだ。





Forbidden lover





――――――屑桐は困っていた。
その刺青を施した顔からは判断がつかなくとも、彼は確かに困っていたのだ。
目の前にいる、小さな少女を前にして。

(・・・・・・・・・可愛い・・・・・・・・・)

立ち尽くす屑桐の頭はそれだけが占めていた。



ボケーッと、しかし傍から見れば睨んでいるかのように立っている屑桐に気づいたのか、少女が振り返った。
その身長は、屑桐よりも頭2つ以上低い。
120センチ・・・・・・あるかないか位である。おそらく小学校低学年だろうか。
少女は決して柔らかいとは言えない表情の屑桐を見上げても表情を変えることなく、きょとんと首を傾げてその赤い唇を開いた。
「お兄ちゃん、だぁれ?」
――――――――ハレルヤ!!!
屑桐は脳内で喝采をあげた。
あぁなんて可愛い声! そして可愛い仕草! まさに理想!!
少女の年齢に見合っただろう幼い仕草は、屑桐のハートをわしづかみにしてしまったようだ。
まさにジャストミート!
「・・・・・・・・・俺は、屑桐無涯」
「むがい?」
「あぁ、そうだ」
顔だけはものすごくまともである。ものすごく普通に見える。
おそらく顔中の筋肉をフル稼働させて緩みそうになる頬を押さえているのだろう。
けれどそんな屑桐の内心にも気づかず、少女は微笑んだ。
「むがいお兄ちゃん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・屑桐無涯、心中で二度目のスタンディングオペレーションである。
「・・・・・・・・・おまえは、高校に何か用なのか?」
屑桐が先ほどよりも表情を保つのに苦労しながら尋ねた。
少女はコクンと、やはり屑桐を喜ばせて止まない仕草で頷いて。
「あのね、、お兄ちゃんをまってるの」
「・・・・・・・・・名前は、というのか」
「うん」
ふんわりと微笑んで頷いた少女――に、屑桐はほんの少しだけ口元を緩めた。
それはつまり張り詰めていた筋肉が少し緩んでしまったということでもある。
それを認めては先ほどよりもニッコリと満面の笑顔を浮かべた。
とても愛らしく、さくらんぼのような唇が言葉をつづる。
「むがいお兄ちゃん、わらうとカッコイイ!」
「・・・・・・・・・そう、か」
「うん!」
屑桐無涯、心臓がこれ以上ないほど高速でリズムを刻む。
そしてその無骨な手をへとそっと伸ばした。
壊れ物でも扱うかのように優しく、それでいて強く。
は、可愛いな」
屑桐の瞳に、熱がこもる。
「かわいい?」
「あぁ、とても可愛い」
何度もまめを潰した硬い手の平で、の柔らかな茶色の髪を撫でる。
まるで子猫のように目を細めてくずぐったそうに笑うに、屑桐は違う意味合いを持って目を細めて。
ふくふくの頬に指を這わせる。
その柔らかさと、温かさに指にこもる力が強まって。
が、不思議そうに顔を上げる。
その紅い唇が、やけに鮮明に屑桐の目に映った。
「むがいお兄ちゃん?」
甘そうな、舌がひらめく。



その舌を舐めたら一体どんな味がするのだろう。
きっと、間違いなく甘い。それでいて柔らかく。
絡めて吸い上げたらどんな声で鳴くのだろうか。
衝動的な、欲望がうずく。

屑桐がひときわ獰猛に唇を歪めた。



「なーに犯罪しようとしてんスか、屑桐先輩?」



軽やかで明るい声を聞きながら、屑桐は横蹴りを食らって吹っ飛んだ。
ニュッと伸びて屑桐の脇腹を蹴飛ばした長く威力のある足。
それは容赦なく屑桐を地面へと平伏させ、犯罪を未然に食い止めた。
はというと突然の出来事にきょとんと目を丸くしていて。
「貴様っ・・・・・・!」
屑桐が体勢を立て直し、自分を蹴り倒した相手に掴みかかろうとしたとき。



「ばからお兄ちゃん!!」



―――――実に屑桐好みのの声が、停止ボタンをピタッと押してしまった。
屑桐の、動作が止まる。
その代わりに今現れたばかりの青年がへと満面の笑みを浮かべた。
「ダメっしょ、怪しい男に近づいちゃぁさ」
「でも、むがいお兄ちゃんはこわくなかったよ?」
「こういうムッツリに限ってロリコンだったりするんだよ。は可愛いんだから気をつけなきゃ」
、かわいい?」
「モチロン。俺の妹だし?」
当たり前の動作で御柳芭唐はに近づき、その小さな体を片腕に抱き上げる。
そして自然な動作でキスをした。
―――――――――屑桐が、奪いたい欲望に駆られたあの唇に。



「みやなぁぎぃいいいいいいいい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」



どうにか保っていた平常通りの表情を放棄し、ちゃぶ台をひっくり返しそうな勢いで屑桐が立ち上がる。
一方、御柳は平然としていて、も彼の腕の中で不思議そうに屑桐を見ている。
それはもう、何言ってるの? という感じで。
「どしたんスか、屑桐先輩?」
「どうしたも、こうしたも・・・・・・っ!!」
「どうしたの? むがいお兄ちゃん」
コクリと首を傾げたの可愛らしさに屑桐は押し黙らざるをえない。
そんな様子を敏感に察知して御柳は笑った。
それはもう、心底楽しそうに。
「あぁ判った。屑桐先輩もしたいんっしょ、とキス」
「!!!!!?????」
「でもダーメ。させてあげなーい」
「!!!!!!!!!!」



「だってにキスするのは俺だけで十分だし?」



言うが早いか、御柳はへと口付けた。
それも先ほどの啄ばむようなキスとは違って。
深く、深く。
「・・・・・・・・・んっ・・・」
鼻にかかったような息が漏れて、の頬がうっすらと染まる。
その表情が小学生(しかも低学年)に見えないほど艶やかで、屑桐は知らず喉を鳴らす。
御柳は細目を開けて笑うと、一段と深く口付けた。
「・・・んぅ・・・ふぁ・・・・・・っ」
そのキスについていけなくなったのか、の唇から透明な雫が零れる。
それが顎を伝い、うっすらと輝いて。
御柳は唇を離しこれ見よがしに舌で舐めた。
を抱きかかえていた手はいつの間にかワンピースの裾から差し入れられていて。
白い太腿が御柳の手によって晒される。
唇から伝ったキスは首筋に紅い痕を残し、零れるのは、甘い吐息。



「・・・・・・ばから・・・っおに、ちゃぁん・・・・・・っ!」



―――――――――――――――――――――――屑桐無涯、陥落。



ー早く帰って続きしよっか」
「つ、つづきって・・・・・・・・・ばからお兄ちゃん!」
「イイコト、しよ?」
まだ桜色の頬を染めたままのに口付けて、御柳は妹を抱き上げたまま去っていった。
どうしようもない状態に陥って立てずにいる、屑桐だけを残して。
御柳兄妹は去っていった。





<翌日>
「御柳! 妹さんを俺にくれっ!」
「なーに言ってるんスか、屑桐先輩。誰が妹を犯罪者に嫁に出すんスか?」
「それを言うならオマエとだって血の繋がった実の兄弟だろう!? ならばそちらの方が不自然だ!!」
「いいんスよ、俺は。今はを俺好みに育ててる最中だし?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜(何て羨ましい!)」
「今羨ましいって思ったっしょ?」
「!!!」
「まだまだっスね、屑桐先輩?」



「何かやってる気〜(^o^)丿」
「放っておぐ。どうぜ屑桐先輩が趣味を丸出しにしてるング」
「だよね〜(*^_^*) 御柳ってたしか小学生の妹いた気だし?」
「屑桐先輩はもう病気ング」
「あはは言えてる〜(^O^)」



屑桐の必死の願いが届くのが先か、御柳が妹を自分好みに育て上げるのが先か。
華武野球部ではそんなトトカルチョが行われていたという。



「誰か屑桐先輩に賭ける人いない気〜?」
「大穴だから配当も高いング」



どっちが有利かなんて、目に見えている勝負であった。





2003年2月28日