相変わらず今日も司馬はエイリアンだ。





寄り道禁止まっすぐ帰宅





「なー野球部って何時に終わんの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「6時か。オッケー。じゃあ今日夕飯食って帰んね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「あー平気。俺らは5時半上がりだし」
「・・・・・・・・・・・・」
「よし、決定な」
昼休みにパンを食いながら約束をして、今日の放課後は司馬と飯を食いにいくことにした。
今日は母親も父親もいないしなー。
コンビニってのは寂しすぎるし、一人で作っても疲れるだけだし。
つーわけで司馬は道連れ、世は情け。
夕飯はファミレスか定食で決定。よしよし。



ハードルやら高飛びのマットやらを片していると何やら声がかかった。
「ねーねー君。今日これからヒマ?」
同じ陸上部のオンナノコ。ちなみに専門は短距離走。
「や、これから司馬とメシ食いに行く約束してる」
「そうなの? 残念。せっかく一緒に帰ろうかと思ったのにー」
「また今度ってことで」
笑いながら約束をした。
喜んで去っていくオンナノコを見ながら可愛いなーなんて思ったりして。
ジャージを着替えに部室へ戻る。
さてと、司馬を迎えに野球部へ行くとしますか。
やー何だか俺って彼氏待ちの恋人って感じ?
ナイス!



「司馬君、早く!」
ようやく練習の終わったらしい野球部に、俺は可愛らしく(俺的にはだけど)声をかけてみた。
司馬がグルンッと振り向いたし。ダッシュで来るし。でも兎丸の方が速い速い。
君、司馬君待ってたのー?」
「おー。一緒にメシ食いに行くから」
「マック? デニーズ? それとも松屋?」
「俺的にはサイゼ希望。ダメ? 司馬君」
後半はさっきと同じように可愛らしく言ってみたら司馬は固まった。
サイゼ、嫌なのか?
「だったら吉牛でもいーけど」
でも今日は牛丼の日じゃないから安くはないんだよなー。それがネック。
「・・・・・・君って司馬君のこと『司馬君』って呼んでたっけ?」
兎丸が首を傾げて見上げてくるから、その毛糸帽子を撫でてみた。
おーいい手触り。兎みたい。
「や、今日は彼氏待ちしてる彼女の気分だったからそう呼んでみただけ」
「じゃあ僕のこと待ってるときは『比乃君』って呼んでね〜」
「機会があったらなー」
そんな会話をしている最中も何故だか司馬は止まったまま。
だから蹴りをくれてやった。
「・・・・・・っ」
「あと3分」
そう言ったらダッシュで部室へと走っていく司馬。そしてつられてダッシュしていく兎丸。
向こうから手を振ってくる猿野と子津に軽やかに手を振り返しておいた。



「ダメじゃん司馬君、あれくらいで赤くなっちゃ〜!」
「スバガキの言うとおりだな。もうちょっと免疫つけろよ、司馬ぁ?」
「司馬君と君って同じクラスだからいつも一緒にいるっすよね?」
「なのにその態度とは・・・・・・。猿野君の仰るとおり、もう少し免疫をつけるべきだと私も思いますよ」
「・・・・・・・・・とりあえず、頑張れ」
チームメイトの応援を聞きながら光速で着替えた司馬は部室から出て行った。
そんな彼を野球部員一年生一同はハンカチを振って見送っている。
『今日こそは、司馬がの名前くらいは呼べますように』と祈りながら。
照れ屋すぎるチームメイトを持つのも中々大変なようである。



「・・・・・・・・・・・・」
「いーっていーって。じゃあサイゼ行くか」
息を切らせるほど焦って走ってきた司馬に目的地を決めて俺たちは歩き出す。
・・・・・・・・・・・・・・あ。
「司馬、おまえチャリじゃねーの?」
聞いたら司馬はコクンと頷いた。
そうだそうだ。司馬ってチャリ通だったじゃん。
「今日は? チャリで来たんだろ?」
コクリ。
「じゃあ乗って帰んなきゃじゃん」
フルフル。
「俺のことはいーって。つーか後ろ乗せて?」
司馬がやっぱり固まった。
俺はそんな司馬を引きずってチャリ置き場の方へ。
よっしゃ! 足が出来たぜ!



部活で疲れてるのは俺も司馬も同じ。
体格的に俺よりもデカイ司馬がチャリをこぐと言い張った。
それはもう何だか「何でこんな主張するんだよ?」くらいの勢いで。
まー楽が出来るならそれに越したことはないし、というわけで俺は荷台にて司馬のお荷物へと変化。
出発発進・葵号!



司馬が前を向いて運転してるのに対して、俺は背中を合わせるように後ろ向きにお荷物状態。
たそがれの空が紫色っぽい。おー綺麗綺麗。
司馬は風を切ってチャリをこぐ。
何だかマジで俺、彼女みたいだなー。
んーと? 彼女の両親が今日は帰らない場合ってやっぱこれしかないだろ、うん。
希望的観測が入ってるって? でも俺も健全な高校生男子だし。
「司馬、今日俺んち泊まってかねー?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
まて、おまえは俺を死なす気か?
「俺、とりあえずまだ生きていたいんだけど」
「・・・・・・・・・・・・」
「安全運転で頼みまーす、ドライバーさん」
ヨロヨロと蛇行を繰り返す司馬の背中に思わず頭突きをかました。
そうしたら司馬はますますふらついて。
「運転代わるか?」
「・・・・・・・・・・・・」
やっぱり頑なに運転を主張する司馬を尊重して、俺はお荷物のままでいた。
「だってさー俺、今夜一人だし」
「・・・・・・・・・・・・」
「可愛い彼女に寂しく一人寝しろってか? うっわー司馬君冷たいっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「つーのは冗談として、ただ単に司馬が泊まりに来てくれたら楽しいだろうなーと思って」
「・・・・・・・・・・・・」
ちなみに今交わした会話での司馬は無言だ。ってことは会話じゃないのかも。
俺だけペラペラと喋ってる感じで。
無反応な司馬の背中に自分の背中を預けてみた。
あったかいのはきっと、司馬がチャリをこいでいるからだろう。ぬくぬくー。
こんな湯たんぽが夜もあったらいいなーと思うわけで。
「司馬、今日はうちに泊まりな。よし決定!」
そう宣言したら葵号はめっちゃ揺れに揺れまくって。
サイゼまで生きて着かないかもなーとか思ったりした。



たそがれだった空はいつの間にか暗くなってて星がチラホラと見えていた。
サイゼまでチャリで10分くらいの距離なはずなのに、葵号は何故だかまだ着かなくて。
まーいいや。司馬の背中、あったかいから。
もうちょっとこのままでもいーかな、なんて思うし。



だからさ、せめて車道にははみ出さずに進んでくれ。
そんな意思を込めて俺はドライバーの背中に頭突きをかましてみた。





2003年3月25日