この春、俺は高校に入学し、エイリアンと知り合いになった。





第一種接近遭遇





眠い。スッゲー眠い。やっぱ五月病? 俺もう眠くって仕方ねー。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、昼? 俺は購買」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そ? じゃあ先行ってて。ジュースは何にする?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「オッケー。じゃな」
司馬に手を振ってから財布を持って立ち上がる。
目指すは購買。お昼時の戦場。
でも俺は平気。だって購買のおばちゃんと仲良くなって予約取り付けられるほどになったし。
今はおばちゃんたちの好意に甘えてパンはいっつも取っといてもらってる。
「あ、君。はいこれが今日の分ね」
やーもう素敵! おばちゃん様様!



購買で受け取ったパンとカフェオレのパック、それに司馬に頼まれたお茶を手に屋上を目指す。
司馬が先に行って場所を取ってるはずだから、のんびりと歩きながら。
重い扉を開ければフェンスに寄りかかって座ってる司馬がいて、軽く手を上げてくるのに頷きで返した。
「ほい、ウーロン茶」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁ80円な。後ででいいから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どういたしまして」
アスファルトの屋上に座ってパンの袋を開ける。
とりあえず最初は購買名物ヤキソバパンから。
あーうま。うまうまうま。
美味いと言えば司馬の弁当に入ってる和風カラアゲが美味そう。
司馬の母さんって料理上手なんだなー。
家庭の味、いいねぇ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「え? くれんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「サンキュ」
司馬が箸に挟んで持ち上げたカラアゲにパクッと食いつく。
あ、やっぱ美味い。冷めても美味いのがまた良し。
「・・・・・・・・・司馬、おまえ何でそんな真っ赤なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「まぁそれならいいけど」
司馬が何でもないって主張するから放っといてコロッケパンの袋を開けた。



眠い・・・・・・。やっぱ4時限に古典だったのがワリィんだ。
この眠気、どうしてくれよう・・・・・・!
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「マジで? あーじゃあお言葉に甘えて」
俺は司馬の膝に頭を乗せて横になった。
ちょい筋肉質な枕だけど、この際贅沢は言ってらんねー。
夢の世界が俺を呼んでるぜ。
「5時限目、自習だろ? 終わったら起こして」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「オヤスミ」
俺の髪をすく司馬の手が気持ちよくて睡眠列車がスピードを上げる。
お休み3秒かよ、俺は・・・・・・。



司馬ってさー宇宙人っぽいよな。
そのグラサンとかヘッドフォンとか青い髪とか。
俺とは違うエイリアン。
土星から来た未確認生命体。
俺、人類外と接触を持った初の人間なのかも。
やースゲー。拍手ー。
パチパチパチパチパチパチ。
誰も拍手してくれなさそーだから自分でしてみた。
つーかぼんやり眠り中だから意識だけでだけど。
グラサン外した司馬とか見てみてーなー・・・。
今度奪ってみようかなぁ。
きっとグレイみたいなデカイ目なんだろうなぁ。
あーそうしたらやっぱ司馬のエイリアン説は真実に・・・・・・!
そして発見した俺はノーベル賞を貰うのだ!!
でもマスコミに発表する前に俺が司馬に拉致られそー。
未確認飛行物体が迎えに来て俺を連れて行ったりして。
木星か・・・。あれ? 土星だっけ?
まぁどっちでもいいや、外国は外国だし。
でもって司馬と同じエイリアンとかに歓迎されたりして。
パレードカーに乗せられて星を一周したりして。
そして科学研究所へと送り込まれ・・・・・・。
皮膚を剥ぎ取られ、内臓を取り出されて、脳を解剖されて。
やー・・・止めーストップー。
俺をバラして標本に詰めるのは待ってくれー!



何だか柔らかい感触を感じて意識が浮上する。
ふわわわわんって感じか?
眠いまぶたをこじ開けてみると、至近距離に司馬の顔が見えた。
野球部でほどよく日焼けした顔が何故か真っ赤に染まっていって。
「・・・・・・へーきかぁ?」
触れた頬はやけに熱いし。
ペチペチと叩くと司馬は慌てて何度も首を振った。
何だコレは・・・? 平気ってことなのか?
まぁいいや、そーいうことにしとこ。



時計を見ると5時限目が終わる5分前で。
枕から頭を上げて伸びをする。
やーもう寝たから元気回復。何か変なこと考えてたから深い眠りではなかったけれど。
枕が良かったからか? うむ、よしよし。
「司馬、足へーき?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「やっぱ痺れてるか。ごめんな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
フルフルと首を振って否定する司馬に笑って手を貸してやる。
そうしたら司馬は立ち上がったはいいけどヨロけて、思わずその体を受け止めた。
うーん・・・・・・体は温かいんだなー。エイリアンの体って冷たいと思ってた。
イメージが崩れてく。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、わりわり」
ペタペタと司馬の背中を触っていた手を離すと、司馬は根性で立った。
宇宙人は足腰も強いらしい。
でも顔が赤いのは何でだよ?最近の宇宙人はそれが流行りなのか?
わっかんねー。



でもそれでいいと思う。
俺、何だかんだ言ってエイリアン嫌いじゃないし。
信じられないこととか起こるのも面白いし。
だからさ、司馬?

ずっと俺のことを楽しませてくれよな。





2003年3月20日