ホワイトデー交響曲





三月の十三日。
少女は台所に立つ同僚に向かって言いました。
「新八、ホワイトデーの作り方を教えるアル」
「何でそんなに居丈高なの、神楽ちゃん。っていうかホワイトデーはもうすでに作られてるよ」
「うるいさいアル。まったくこれだから眼鏡は話が通じないネ」
「眼鏡関係ないじゃん! あー・・・・・・ふーんそんなこと言うんだ。へー」
「・・・・・・・・・」
「はい、神楽ちゃん。僕は退くから台所好きに使っていいよ」
いつになくにっこりと笑顔を浮かべ、同僚は一歩横に動きました。
とたんに少女の目の前には台所が広がります。
だけど日頃この場所へ立つことのない少女には、鍋がどこにあるのか、包丁がどこにあるのかすら分からなくて。
むーっと眉間に皴を刻んだ少女に、同僚は思わず笑ってしまいました。
そしてお団子頭をぽんぽんと軽く叩きます。
「いいよ、手伝ってあげる」
そう言って笑えば、妹みたいな少女はこくりと小さく頷きました。



「うん、チョコはそのままゆっくり溶かして。型はどうする? やっぱりハートにする?」
当然ながら万事屋に菓子作りの道具などはないので、同僚は一度自宅に帰って持ってきました。
姉上が一時期凝っててね。実際は凶悪な物体が出来ただけだったけど。
明るくそう話す同僚に、少女は心の中で「ありがとう」と呟きます。
「何かすっげー素敵な匂いが俺を呼んでる」
「ちょっと銀さん! あんたは入ってこないで下さい」
「うっわ何その拒絶っぷり! あれだな、おまえら俺だけ仲間はずれにして甘いもの食おうって魂胆だな!?」
「違いますよ。これは神楽ちゃんのです」
同僚が説明すると、白に近い銀髪の男は半分閉じている瞼で呆れたように溜息を吐きました。
「何、まさか飴玉一個にそんな大層な礼するつもり?」
「うるさいネ。一個もチョコもらえなかったマダオは黙ってるヨロシ」
「おっま・・・! 新八ぃ! こいつ俺たちのこと馬鹿にしやがったぞ!」
「あ、すみません。僕は少なくとも姉上に一つもらってるんで」
「ってことは俺だけかよ!」
男と同僚の漫才を背中で聞きつつ、少女は真剣にチョコレートを飾り付けます。
アーモンドを乗せて、クリームを絞って。
そして先を細くしたチューブで、文字を綴って。
「・・・・・・出来たアル」
完成したチョコレートに、少女は満足げに笑いました。

大きなハートに想いを添えて。
決着の日は、ホワイトデー。





2005年3月14日