バレンタイン協奏曲





「砂糖の匂いがする」
地球での自宅となっている万事屋に帰ってきて、ソファーの背後を通るなり言われた言葉に少女は顔を歪めました。
分厚い週刊誌を枕にして寝ていたこの家の主が、のっそりとした仕草で身を起こします。
「神楽、おめー何か持ってるだろ」
「何も持ってないヨ。銀ちゃんの勘違いアル」
「嘘つけ。この匂いはあれだ。飴だな」
違うか? と聞かれて、少女は心底この男の砂糖に対してだけ発揮されるキラキラを恨みました。
確かに少女は飴を持っていました。だけど、これだけは譲れません。
「あるけど銀ちゃんにはあげないネ。これは私だけのものヨ」
「いーじゃねぇかよ、神楽サン。飴玉の一つや二つでケチケチすんなって」
「一つしかないから駄目アル。それにこれはから貰ったものだから尚更ネ」
二重に断られて男は銀髪の天然パーマを掻き毟ります。
「何? おまえまだあのヤロー諦めてなかったわけ? しつこい女は嫌われんぞ」
「嫌われたら後は好かれるだけだから気にしないアル。余計なお世話は定春に食われるがヨロシ」
「あーそれはちょい待て。つーか銀さんの記憶によるとあのヤローは確か新八の姉ちゃんに惚れてたと思うんですけど」
「それがどーした」
男らしく、ある意味とても女らしく少女は言い切りました。
そんな様子をしばらく横目で眺めた後、男は軽い溜息を吐き出して肩を竦めます。
「・・・・・・まぁ、おめーがいいならそれでいいさ」
「私の心配をする暇があったら銀ちゃんは仲人の挨拶でも考えておくアル」
「結婚まで考えてんのかよ、おい」
男の言葉には答えずに、少女は押入れを開けて寝床となっているその中へと上りました。
横になって襖を閉めて、ずっと握り締めていた手のひらをゆっくりと開きます。
不恰好な飴玉が一つ、ころりと布団の上を転がりました。
わずかに入ってくる光に、きらきらと輝く飴玉。

「・・・・・・パピー、マミー。私、頑張るアル」

少女は目を閉じて誓いを一つ。
いつかこの飴玉のように、甘い関係になれますように。





2005年2月14日