バレンタイン協奏曲





定時の見回りを終えて帰ってきた少年を見つけ、明るい茶の髪をした隊士は声をかけました。
「おかえりィ、
「ただいま帰りました、沖田さん」
「で、万事屋のチャイナからチョコはもらったかィ?」
「飴玉一つ毟り取られましたよ」
へぇ、と呟いて隊士は寝ていた体を起こしました。
上着をちゃんと着込んではいたものの、早春の縁側で昼寝をするには少し寒かったのかもしれません。
首をぐるりと回してアイマスクを外し、きらきらと何か良からぬことでも考えていそうな目を覗かせます。
少年は玄関から入るのではなく庭を突っ切って、己の上司でもある隊士の下へ向かいました。
その際にかすかに屋内を見回した少年に、隊士はにやりと笑います。
「近藤さんならちょいと前に出かけたぜ。何でも今日は『オタエサン』にどうしても会わなきゃいけないとか言ってたっけなァ」
「・・・・・・そうすか」
「妬くなら妬いた方が素直ってもんだい」
「正面切って局長と争えっつーんですか?」
「それも面白いや。けど俺としちゃあ、こればっかはチャイナの味方だから頼りにしない方がいい」
少年は形の良い眉を顰めました。
「・・・・・・沖田さん、あいつのこと好きなんじゃないんすか?」
「好きさァ。おまえと同じくらいに」
「そーすか」
肩を竦めた部下に、隊士はくつくつと笑いました。
そしてふざけた目の描いてあるアイマスクを引きおろし、再び縁側に転がります。
少年はそれを眺め、手持ち無沙汰にしていたけれど。

「そーいや山崎の奴が近藤さんに急ぎの用があるとか言ってたっけなァ」

ポツリと呟いて、しばらくの沈黙。
足音を立てず去っていく気配に、隊士は唇を楽しそうに歪めました。
「チャイナ娘、こりゃ難しそうだぜィ?」





2005年2月14日