バレンタイン協奏曲





2月14日。かぶき町の街角で一組の少年と少女が向き合っていました。
間に流れるのは甘い雰囲気。甘い甘い甘い甘い、溶けてしまいそうな、むしろ溶けてしまった方がよさそうなくらいのスウィートな雰囲気。
その中で、少女は少年に向かって言いました。
「今日はバレンタインネ。チョコ渡すヨロシ」
「違うだろ。女が男に渡すんだよ。ドゥーユーアンダースタン?」
「ハッ! にわかウェスタンが何言ってるネ。最近のかぶき町じゃ男が女にチョコあげる常識ヨ。知らないなんて遅れてるにも程があるネ」
「勝手に常識作ってんじゃねーよ。てめぇの都合に世間様が従ってくれるとでも思ってんのか? だったら万事屋やめてSM嬢になりやがれ」
さらりとした黒髪に、端整に整った顔立ち。
泣く子も黙る真選組の黒い洋装がよく似合う少年は、その美少年な外見にえらく不釣合いな言葉遣いと会話内容をしていました。
だけどそんな彼と相対している少女も、チャイナ服にピンク色の髪、色白の肌を守るように差している日傘の下で酢昆布を食べていました。
二人の間には甘い甘いあまーい空気が流れています。
おそらく砂糖を取らずにはいられない某何でも屋の主がいたら、それこそ喜んでしまいそうな程の甘い空気が。
甘すぎて耐え切れなくてそそくさと逃げ出してしまいそうな空気がとろり。
「つーかてめぇ、昨日また沖田さんに喧嘩売っただろ。あの人が騒ぐと土方副長に皺寄せが行くんだからいい加減ヤメロ」
「あの男が絡んでくるのが悪いアル。嫉妬する必要ないネ」
「誰がするか。俺が妬くのは近藤局ちょ―――・・・・・・」
あまーいあまーいとろけるような空間が、二人をすっぽり包みます。
それはあたかもフォンダンショコラの中に仕込まれているトリュフのように。

甘くて苦い、恋のように。

「・・・・・・・・・馬鹿野郎。そこで黙んじゃねーよ」
「ふん。おまえが姉御に惚れてることくらいお見通しヨ。今更グダグダ言うなんて男らしくないアル」
「だったらそんな男らしくない男に惚れんじゃねーよ。―――っくそ!」
少年は吐き捨てて、帯刀している制服のポケットを漁ります。
がさごそとしばらく続いて出てきたのは、よれよれになった飴玉が一つ。
放られたそれを、少女は片手でナイスキャッチ。
少年は踵を返しました。
「じゃーな。もう金輪際、沖田さんと喧嘩すんじゃねーぞ。てめぇらのドンパチは規模がでかすぎて俺らが迷惑すんだからな」
「税金泥棒はべちゃくちゃ言わず大人しく仕事するアル」
「払ってねーくせに一丁前の口利くんじゃねーよ」
振り返ることなくすたすたと歩き出した後姿を、少女はじっと見つめます。
手の中の飴は長い間少年のポケットの中にあったのか、少しだけ形も崩れていて。
だけどとても嬉しそうに、少女はその飴を握り締めました。
「・・・・・・三倍返し、楽しみにしてるネ」
ちょっとだけ強引なバレンタインデー。
飴玉一つ分、甘い恋になりますように。





2005年2月14日