半分機械で半分人間。
でも友情は100%





冒険者たち





「よっ! 半年振り、dZi9」
かけられた声にdZi9こと九頭神ジンは振り返った。
そこには自分と同じ黒いコートに身を包んだ男が一人。
夜に映える亜麻色の髪と明るい笑顔がこの場にはかなり不釣合いだけれども、二の腕の紋章はそれを否定していた。
アイスブルーの右目が自分と同じ性能のもので。
ジンは自然と頬を緩ませて笑う。
「久しぶりだな、dZi7。今回は長期任務だったのか?」
「そーだよ。マッタク要人の護衛なんてするもんじゃないよなぁ。どこ行くにも車だから着いてくだけで大変だし、夜も普通に活動してるしさ」
バサッとコートを翻して彼はジンの隣に座り込む。
彼のコートナンバーはdZi7。
ジンと同じ秘密部隊ジーズ機関に所属するdZiナンバーズの一人である。
けれどそんな様子は微塵も見せずに、彼はぶつぶつと愚痴をつづって。
「そっれにしても最悪。護衛者【ターゲット】は中年のオヤジだし、全っ然楽しくなかった」
「・・・・・・・・・楽しい楽しくないじゃないだろ、俺たちの仕事は」
「そりゃまぁねー? ジンは最近とおっても可愛い女の子の護衛任務についてるみたいだし? 俺の気持ちは判ってもらえないよなぁ?」
彼はニヤリと、待ってましたとばかりに笑った。
そして驚いて硬直してしまったジンを見てさらに声をあげて笑い出した。



風が強めに吹きすさぶ建て途中の鉄筋ビル。
高性能の右目を駆使してdZi7・・・・・・もといは件の少女を発見した。
そしてヒュウッと口笛を鳴らす。
「いまどき珍しい純情系。あー、ひょっとしてあの子がアレ? ストレスで電気ショートを起こすっていう」
「あぁ、そうだ。今はだいぶコントロールも出来るようになってきてるが」
「可愛いじゃん。俺のターゲットだったチビデブ中年とは大違い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あまりの言い草に何も言えずに口をつぐんで。
「なぁなぁジン。その任務、俺と代わんない? 今ならジョナサンの新作デザート全部おごってやるから」
今度はどこまで本気かわからない言葉にジンは思わず頭を抱えて、そして呆れたようにため息をついた。
・・・・・・」
「んだよ、ジン」
少しの機械音を立てながら右目をワイド画面に直し、焦点を少女から街へと拡大する。
「だって俺たちっていっつも護衛ばっかじゃん。どうせ守るなら好みのタイプがいいに決まってるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「にしても可愛いなぁ、あの子。名前はなんてーの?」
「黒羽舞。13歳」
「ふーん」
名前を尋ねはしたが反応の薄い返事にジンは疲れたようにため息をついて。
「・・・・・・おまえの考えてることは判らん」
苦笑に近い顔で笑った。



階下の道路ではキョロキョロと何かを探しているらしい少女。
いや、この場合は『何か』ではなく『誰か』をか。
しばらく左右を見た後で上を向き、少女との視線がぶつかった。
相手が息を呑んだのを見て、は安心させるように手を振って笑う。
「ジン。お姫様がお待ちかね」
楽しそうにクスクスと笑って。
自分の後ろから視線を投げかけたらしい男の姿を見て少女があからさまにホッとした様子で笑顔を浮かべる。
「・・・・・・?」
「あ、あははっはははは! あーなんだ、そーいうこと」
腹を抱えて笑い出した友人にジンは不審そうに眉をしかめる。
けれどはというと細い鉄筋の上を器用にゴロゴロと転げ回って、さんざん爆笑した。
それはもう、目にはうっすらと涙が浮かぶくらいまで。
「・・・・・・い、行ってやれよ、ジン。お姫様が待ってる・・・・・・っ」
言葉の端々がまだ笑っている。これでは笑みを堪えようとしているのも無駄な努力としか言いようがない。
「お、俺ならいいからさ、早く行ってやれって」
ヒラヒラというよりはむしろ『シッシ』と犬を追い払うかのように手を振って寄こして。
ジンはそんなの行動に首を傾げながらも立ち上がった。
。オマエしばらくは休みだろ? また今度話そう」
「オッケーオッケー。そのときは彼女との出会いでも聞かせてくれ」
「・・・・・・・・・?」
やはり不思議そうに首を傾げるジンを笑って、ポンッと肩を押してビルから突き落とした。
そのまま落下していく黒いコートを見ながら心底楽しそうに笑って見せて。
「全力で守れよ。彼女の王子様はジン限定なんだからさ」
軽く着地して走っていく後ろ姿に呟いて。
頑張ってと、エールを一つ。
「ジンは鈍いからちょっとやそっとじゃ気づかないし? 長期戦で臨めよ、舞ちゃん」
手を振って二人を見送った。



ジーズ組織『ヤタガラス』
半機械人間であるサイボーグの彼らの間にも、篤い(?)友情は築かれているのである。





2003年4月28日